
これまでアプリベンダーは、ほとんどSEOなどに注力してこなかったと思いますが、2015年4月頃から、アプリベンダーが、SEOやソーシャルメディアを活用した集客に注力し始めるようになりました。当社もいくつか支援をさせていただいています。アプリベンダーがSEOやソーシャルメディアを使った集客に注力する流れは今後、より強まっていくように予想しています。その理由を、プラットフォーマーの動き、ユーザーの動き、スタートアップの戦略の3点から考察します。
1,プラットフォーマーの動き
Appleによるリワード広告への規制が厳しくなりました。一時、Webニュースで話題になっていたので、ご存知の方も多いと思います。知り合いのアプリベンダーの方にも聞いてみましたが、2015年に入ってからAppleの審査がリワード広告に限らず全般的に厳しくなったとのことです。規制が厳しくなったことにより、アプリベンダーは、リワード広告を使った認知獲得が難しくなりました。また、アプリ版のSEOであるASO(App Store Optimization)でも規制の影響が出ているようです。ASOの主要な施策は、アプリ名やアプリ紹介ページに検索キーワードをうまく入れることでしたが、アプリ名に無理にキーワードを入れすぎている場合、Appleの審査が通りづらくなっているようです。
一方、Google(ウェブ検索)は、Google IO’15にて、App-Only Indexingの開発を発表しました。
参照:Indexing App-Only Content
現状は、ウェブサイトを運営していなければ、Googleのウェブ検索にはindexingされませんが、App-Only Indexingがリリースされれば、アプリだけでも、indexingされるようになるとのことです(現状のApp Indexingと同様何かしら設定は必要になりそうですが)。現段階ではGoogleのウェブ検索上で、どういったアルゴリズムでアプリが表示されるのか分かりませんが、リリースされれば、Googleのウェブ検索を通してアプリと接する機会が増えることは間違いないでしょう。これまでアプリがメインとなるサービスの場合、集客施策においてSEOが組み込まれるケースはほとんどなかったと思います。FacebookやTwitterなどのプラットフォーマーは、これまで通りの存在感を見せ続けるとして、更に、Appleの規制強化とGoogleウェブ検索のアプリ重視の動きから、アプリベンダーが、今後、SEO(ウェブ検索対策)に注力せざるを得ない状況になってきたと思います。
App-Only Indexingは、2015年の後半にリリース予定とのことです。まだ、Google IO’15以降、目新しい情報は出ていないようですが、重要な事項が発表されましたら、このBlogで発信していきたいと思います。
2,ユーザーの動き
1ではプラットフォーマーの動きからユーザーとアプリの接点がアプリマーケットからウェブ検索に移行していくのではと述べましたが、スマートフォンユーザーの利用動向からも、その方向性を後押しする興味深い調査がありました。
参照:Wait, what? Mobile browser traffic is 2X bigger than app traffic, and growing faster
この記事によると、スマートフォンユーザーは、スマートフォンの利用時間の87%でアプリを利用していながら、トラフィック(ビジター)数は、ブラウザ経由がアプリ経由より伸びが大きく、2015年の実数は2倍以上にまで拡大しているとのことです。更に、Googleなど超大手企業の有名サービス以外の大半のWebサービスは、アプリ経由ではなくブラウザ経由のユーザー数の方が多いとも述べられています。
つまり、毎日使うレベルにヘビーユーザー化したサービスについては、アプリをダウンロードして継続的かつ長時間利用されますが、そこに至っていない多くのサービスは、ブラウザ経由で、必要な都度、利用されているということです。私自身も、ヘビーユーザー化しているアプリ以外は、基本はGoogle検索経由で使うことが多いため、これは納得の結果です。大半のサービスにとっては「時間のアプリ」、「利用者数のブラウザ(ウェブ)」であり、その傾向が強まっているということですが、こうしたユーザーのスマートフォン利用動向からも、新規ユーザーとの接点獲得や、リピーター化/ヘビーユーザー化してもらうまでの期間中は、ウェブブラウザ経由での利用を前提としたマーケティングを設計することが重要になってきていることが分かります。ウェブブラウザ利用の多くが、GoogleやFacebookといったプラットフォーマー経由です。GoogleにしろFacebookにしろ各プラットフォーマーは、自身のサービスの魅力を高めるため、コンテンツの魅力が高いものほど優先して掲載するアルゴリズムへの改善を続けています。こうした状況から、少なくともウェブサイト/アプリの両方を運用するサービスの場合は、検索やソーシャルで集客できる魅力的なコンテンツの発信に、より注力する必要性と有効性が出てきたと言えるでしょう。
一方、アプリのみでサービスを提供する場合は、アプリ自体にバイラルが生まれる仕組みを組み込んでおくことの重要性はこれまでどおりで、それに加え、App-Only Indexingがリリースされた際に、適応する必要が出てくる可能性があります。App-Only Indexingの仕様によっては、検索ユーザー向けのアプリコンテンツを用意するなど、特別な対応を行わなければならないかもしれません。
3,スタートアップの戦略
3つ目の理由として考えられることは、アプリベンダーの多くがスタートアップフェーズの企業であることです。広告の規制が厳しくなったとは言え、資本力で勝負できる企業は、テレビ広告を含む各種広告を使い、広告予算の勝負に持ち込む事ができます。スタートアップには、その資本勝負ができません。
一方、予算で勝負できないスタートアップにとって、SEOやソーシャルを使った集客は相対的に相性の良い施策です。以前紹介したMint.comも、広告予算に限りがあることがコンテンツマーケティングやSEOを始めた理由のようです。特にライフハック系やメディア系のアプリの場合は、自社に蓄積したネタやノウハウを継続的に発信していくことで、検索やソーシャルメディアを通じて、認知や信頼獲得(リピーター化)につなげる事ができます。
参照:Mint.comの事例
スタートアップ向きの施策である理由は、予算勝負を避けられることだけではありません。通常、大きな予算が掛けられないスタートアップのような会社が行うSEOやソーシャルメディア経由の集客施策の大半は、地味なコンテンツの制作と修正作業の連続です。そのコツコツとした蓄積が、検索エンジンからのウェブサイトへの評価を高めたり、ソーシャルメディアアカウントのフォロワーを増やすことにつながり、最終的な成果に影響します。つまりオペレーション勝負的な側面が強いわけです。
また、検索で上位を獲得しやすいコンテンツと、ソーシャルでシェアを獲得しやすいコンテンツは、パターンが異なります(キュレーションやニュースで取り上げられるコンテンツもパターンが異なると思われます)。
参照:SEOに強い記事の作り方とパターン化についての3つのポイント
参照:87サイト425個のシェア上位コンテンツを調査して分かったソーシャルでシェアされるコンテンツ〜特徴まとめ編〜
参照:87サイト425個のシェア上位コンテンツを調査して分かったソーシャルでシェアされるコンテンツ〜コンテンツ事例編〜
つまり、1つの元ネタを、検索上でもソーシャル上でも活用して成果を出そうとした場合、コンテンツを検索向けに流すのか、ソーシャル向けに流すのかで、編集の仕方が変わってくるため、一手間必要になります。その一手間が、勝負の土俵を、更にオペレーション勝負に移動させます。私自身、スタートアップの立ち上げにいくつか立ち会ってきましたが、スタートアップの強みの一つは、チームが小さく社内調整などが必要ないために、目標に対して一心不乱に追求できるオペレーションにもあると思います。その強みを存分に活かせる施策がコンテンツを使ったSEOやソーシャル集客ではないかと思います。そのことに気づいたアプリベンダーからSEOやソーシャルに力を入れ始めているように思います。
まとめ
アプリベンダーがこれから更にSEOやソーシャル集客に注力し始めるだろう理由として考えられる点をまとめました。以下が主要な点です。
- Appleの規制が厳しくなる一方、Googleのウェブ検索がApp-Only indexingの実装などアプリ寄りの機能実装を予定している。
- 大半のサービスにとって接点獲得の起点はアプリではなくウェブでありその傾向が強くなっている。
- アプリスタートアップにとって予算勝負ではなくオペレーション勝負ができるSEOやソーシャル集客は相対的に有利なマーケティング手法。
1点、反論があるとすれば、アプリベンダーの多くが、これまで広告中心のプロモーションを行ってきたため、SEOやソーシャルなどウェブユーザー向けのコンテンツを使った施策に不慣れな点です。アプリ業界だけで働いてきた若い方は、ASOは知っていてもSEOは知らないケースもあります。これについては、当社もノウハウを普及させていくことで解消していきたいと思います。
【追記】スマホサービス向けの分析&SEOセミナー
2015年11月5日(木)にアクセス解析で有名なUNCOVER TRUTHの小川卓氏と弊社でスマホサービス向けの分析とSEOについてのセミナーを行います。詳細については、こちらをご確認下さい。
https://demandsphere.jp/blog/seminar-1105>https://demandsphere.jp/blog/seminar-1105