コンテンツを中心としたデジタルマーケティングにシフトするコカ・コーラやP&G

コンテンツを中心としたデジタルマーケティングにシフトするコカ・コーラやP&G

セールスフォース社サイトのブログ「消費者行動の変化に伴い台頭するコンテンツマーケティング」連載(当社清水による寄稿記事)の、Ginzaブログへの転載許可を得たため、こちらにもその内容をアップします。コンテンツマーケティングとは何か、その定義と特徴などについてのサマリーです。またコンテンツマーケティングに注目が集まるに至る環境背景(消費者の動き、技術動向など)もまとめます。 当社のコンテンツマーケティングについてのブログポストの一覧はこちらになります。 コンテンツマーケティング関連ブログポスト一覧  

大企業のマーケティングコミュニケーションのデジタルシフト

「伝統的な広告は、コンテンツの邪魔をしてきました。現在の環境において考え、問いかけるべきは『あなた自身がいかにコンテンツの一部になれるか?、消費者の日々の生活の中にどうやって入り込み、消費者の経験を損ねるのではなく、より価値あるものにことができるか?』です。」これは、ジョンソン&ジョンソンのグローバルマーケティンググループ担当副社長のKim Kadlec氏のコメントです。 このような考えのもと、消費者にとって有用なコンテンツを中心にマーケティングコミュニケーションを行う「コンテンツマーケティング」に力を入れる企業がアメリカを中心に増えてきました。「コンテンツマーケティング」は、今後日本においてもマーケティングの一つの流れになっていくと考えています。そこで、今後数回にわたり、コンテンツマーケティングについて、いくつかの実例も含めて説明したいと思います。 今回は、コンテンツマーケティングとはどのようなもので、なぜ今注目されているかについて説明します。  

コンテンツを中心としたデジタルマーケティングにシフトするコカ・コーラやP&G

コンテンツエクセレンスに進化するコカ・コーラ

コカ・コーラのグローバル広告戦略責任者のJonathan Mildenhall氏が、2011年10月に「Content 2020」を発表し、マーケティング活動の「クリエイティブエクセレンス」から「コンテンツエクセレンス」への進化を打ち出しました。それは伝統的な広告手法からの脱却であり、よりコラボレーション的なアプローチ、例えばクラウドソーシング、FacebookやTwitterのファンとの取り組み、アーティストや音楽/映画業界との協業、などによるコンテンツ作りの採用です。この方向性のもと、例えば2012年のロンドンオリンピックのスポンサー活動として120以上のコンテンツを作り出し、3つのテレビCMと6つの屋外広告を行った2008年の北京オリンピックから大きく変わりました。 ※参考:MarketingWeek記事「Creative content will fuel Coca Cola’s growth」   コカ・コーラがコンテンツマーケティングに舵を切ったのは更に数年前であり、2009年の9月にCMOのJoseph Tripodi氏が「Coca-Cola’s marketing will evolve into content management(コカ・コーラのマーケティングはコンテンツマネジメントに進化する)」と述べています。 ※参考:MarketingWeek記事「Coca-Cola CMO sees digital marketing as vital」  

デジタルマーケティングの有用性を明言するP&GのCEO

2012年はじめのP&Gの決算発表会の場で、CEOのBob McDonald氏がマーケティングのデジタルシフトについて言及しました。 “In the digital space, with things like Facebook and Google and others, we find that return on investment of the advertising when properly designed, when the big idea is there, can be much more efficient,” (FacebookやGoogleなどのデジタル空間では、広告の投資対効果が適切に設計されていれば、大きなアイデアがある場合には、より効率的になることが分かっています) FacebookやGoogleなどのメディアにより、デジタルマーケティングの投資がより効率的であり、長期的なコストカットにつながることが判明。伝統的なマーケティング予算を削減し、デジタル領域に注力していくものです。P&Gのデジタルマーケティングの大成功といえば、男性向け制汗剤のOld Spiceキャンペーン。YouTube動画がなんと18億回も視聴されたそうで、それら動画はもちろん今でも見ることができます。 ※参考:AdAge記事「P&G to Cut 1,600 Jobs, Bank on Digital for Long-term Savings」  

コンテンツマーケティングとは何か?

ジョンソン&ジョンソン、コカ・コーラ、P&Gなどのマーケティングの先進的な企業が力を入れる「コンテンツ」マーケティングとは、どういったものでしょうか?コンテンツマーケティングとは、Wikipediaでは次のように定義されています。 コンテンツマーケティングとは、既存および潜在的な消費者をエンゲージするためのコンテンツの制作また共有を含む全てのマーケティング活動を包含する用語です。コンテンツマーケティングは、高品質で適切であり、価値ある情報を見込み客や顧客に提供することが、利益を生み出す消費者の行動につながる、という考えに基づいています。コンテンツマーケティングにより、読み手の注目を引きつけ、ブランドロイヤリティの向上といったメリットを得られます。 ※Wikipedia「Content marketing」 この定義も踏まえ、私はコンテンツマーケティングを次のように解釈しています。 コンテンツマーケティングとは、顧客/潜在顧客/自社がリーチしたい消費者層に対して、そのような人にとって価値があり有用な情報たるコンテンツを制作/発信し、コンテンツを通じてそのような人の興味関心を惹き、自社に対する信頼感や特別感を抱いてもらい、その結果として自社商材を購入/利用して頂くことを狙うマーケティング。 コンテンツマーケティングを構成する個々の施策は、SEOやソーシャルメディア、動画コンテンツやメール、QAやテキスト記事など、これまでの企業のウェブマーケティングで活用されてきたものも多いです。しかしこれら施策の全てを、コンテンツを中心とする一連の考えのもとに組織的に行うことは、比較的新しいコンセプトです。  

コンテンツマーケティングと従来の広告プロモーションとの違い

コンテンツマーケティングは、従来の広告プロモーションと次のような違いがあります。 ■情報の種類 【コンテンツマーケティング】消費者視点、消費者が求める消費者にとって有用な情報。 【従来広告プロモ】企業視点、企業が伝えたい情報。   ■情報の置き場 【コンテンツマーケティング】自社サイト、YouTube、Twitter、SlideShareなど、自社で運営/管理できるメディア。 【従来広告プロモ】他社メディア(広告クリック後は自社サイト)。   ■消費者の情報との接点 【コンテンツマーケティング】自身で探して、友人からシェア、企業からメールなど。 【従来広告プロモ】そのメディアのコンテンツを見ている最中。   ■消費者の目的 【コンテンツマーケティング】当該コンテンツを見に来ている。 【従来広告プロモ】そのメディアのコンテンツを見に来ている。(広告が目的ではない)   ■有効な期間 【コンテンツマーケティング】終わりはない。 【従来広告プロモ】広告費を払っている/プロモーション期間のみ。   以前よりも広告が効かなくなってきたと言われて久しいです。インターネットの登場により、情報の取捨選択の主導権が消費者にわたり、消費者は自身が見たいものを見るようになりました。「企業が伝えたいことを伝える」のではなく、「消費者が見たいと思う情報を提供する」ことが、消費者に知ってもらい、消費者と関係性を作る上で重要になりました。 昔はクリエイティブの素晴らしさで消費者を惹き付けました。しかし今は中身が重要。企業が消費者ニーズに寄り添いつつも自身のコアを表現しようとすると、自ずと「広告枠」では表現しきれず、様々なコンテンツで表現するようになりました。 10年前のインターネット環境では、企業がインターネット上で消費者との接点を持ちうるのは、自社サイトとウェブ広告以外にありませんでした。しかし多様なソーシャルメディアの登場により、企業として消費者と接点を持ちうる場所、特に自社で自由にコントロール可能な場所が増え、自由にコンテンツを提供できるようになりました。そのようなコンテンツに触れ、見たり読んだりする消費者は、そのコンテンツそのものを求めています。従来の広告の場合、消費者は広告が掲載されているメディアやサイトの情報を求めているのであって、広告はコンテンツの邪魔をすると揶揄されることもありました。  

なぜ今コンテンツマーケティングにシフトする企業が増えているか?

コンテンツマーケティングは、BtoB企業を中心とした一部の業種/領域では、以前から行われていました(但し、コンテンツマーケティングという呼び方ではなく)。しかしBtoC企業やブランドを大切にするナショナルクライアントで本格的に採用されるようになったのは、アメリカでもここ数年のことです。コンテンツマーケティングにシフトする企業が昨今増えている背景には、次のような理由があります。  

消費者のネットメディア接触時間/割合の増加

消費者のネットメディアの接触時間/割合が年々増加しています。博報堂のメディア環境研究所さんの「メディア定点調査」レポートを見ると、ネットメディア(パソコン+携帯)接触時間が増加していることがわかります。 メディア接触時間推移   下図は「メディア定点調査」の過去5年分の調査結果をもとに当社で作成し直したグラフで、マスメディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)とネットメディア(パソコン、携帯)の接触時間割合を、年代別に分けたものです。このグラフを見ると、東京在住の若者層のメディア接触は、ネットメディアが既にマスメディアを抜いている、もしくはほぼ同等なレベルになっています。企業のマーケティングコミュニケーションは、潜在顧客層がいるところで行うものです。消費者のメディア接触の変化が、デジタルマーケティングへの投資を強める主たる理由の一つです。   メディア接触時間推移若者  

ソーシャルメディアの広がり

ソーシャルメディア登場以前、ブログなどで消費者が情報発信することはできても、「誰にどういった情報を届けるか」の主導権は、まだ企業が持っていました。しかしソーシャルメディアの広がりにより、ツイートやシェアなどを通じて、消費者が別の消費者に情報を届け、伝播させることができるようになりました。消費者によるツイートやシェアにより、情報到達ユーザー数は劇的に増加する可能性を持ち、また企業からの一方的な押しつけと比較して、情報の信頼性も高まります(あの人がツイートした情報だから見ておこうといったもの)。また消費者間の情報拡散だけでなく、リツイートなどでバズったものが大手メディアに取り上げられるような、情報の流れが逆流するケースも増えました。ツイートやシェアされたものは、著名人のつぶやきなどはありつつも、その大半は良質なブログ記事や面白い動画などのコンテンツが大半です。ソーシャルメディアによる情報拡散メリットを得るべく、共感性があり、人の興味を惹くようなコンテンツの重要性が高まっています。  

コンテンツ表現技術の進化

コンテンツの表現方法は、以前は主にテキストと画像であり、リッチな表現は難しいものでした。しかし表現技術は進化し、YouTubeなどの動画やウェビナー、画像コンテンツや最近流行し始めたPinterest、今後日本でも広がるであろうeBookなど、コンテンツの表現方法は多様化しました。この表現技術の進化により、ブランド観を大事にする企業でも、自社の世界観を表現できるコンテンツを作成できるようになり、それがコンテンツマーケティングへのシフトの一因になっています。また、様々なメディアの増加により、制作したコンテンツの二次利用の可能性の広がり、コンテンツ制作のコストメリットを大きくしています。  

検索エンジンの変化

上述の背景と比較すると影響度合いは相対的には低いものの、検索エンジンの変化も、コンテンツマーケティングの後押しをしています。検索エンジンの実質的なミッションは、「消費者の知りたいことに対して、適切だと思われるウェブページを検索結果として返す」ことです。検索エンジンはそのミッションを適切に行うべく検索順位付けロジックを頻繁に微改善します。その改善の一環として、検索エンジンを欺くような手段をとるサイトにペナルティを与え、低品質のコンテンツの優先度を下げる(≒良質なコンテンツの優先度が相対的に上がる)ようになっています。結果として、消費者が知りたいことに対して良質なコンテンツを提供することが、SEOの観点でも改めて重視されるようになってきました。 また、ソーシャルメディア上でのシェアやツイート(ソーシャルシグナル)も検索エンジンの順位付けロジックに影響を与えるようになり、ソーシャルメディアでシェアされるようなコンテンツは、結果としてSEOにも良い影響を与えるようになっています。  

まとめ

第1回目の今回は、コンテンツマーケティングの定義とその特徴、コンテンツマーケティングにシフトする背景について説明しました。是非覚えておいて頂きたいのは次の点です。 •アメリカで「コンテンツマーケティング」に力を入れる企業が増えている。 •コンテンツとは、消費者にとって有用で価値のある情報であり、企業視点の企業が伝えたい情報ではない。 •若者層のメディア接触時間は、ネットがマスメディアを抜いた、もしくは同等レベルに。 •ソーシャルメディアでシェアされるのは「コンテンツ」。