この秋、セールスフォース社のビジネス&ソーシャルのブログサイト※で「消費者行動の変化に伴い台頭するコンテンツマーケティング」というトピックの連載を持たせて頂きました。
その連載のGinzaブログへの転載許可を得たため、こちらにもその内容をアップします。
ブランド企業が力を入れる動画コンテンツ
コカ・コーラやP&G、NikeやDiorといったブランドを大事にする企業もコンテンツマーケティングにシフトしつつあります。そのようなブランド企業が力を入れるのが、動画コンテンツです。共感を呼ぶような内容、企業や商品のブランド観を表現する内容、思わず笑ってしまう内容など、見応えのあるクオリティの高い動画が多いです。
Best Job | P&G London 2012 Olympic Games Film
P&Gが2012年のロンドンオリンピックに合わせて出した動画で、世の「お母さん」に向けたストーリーです。
( Being a mom is ) The hardest job in the world, is the best job in the world.
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NIKE FOOTBALL: MY TIME IS NOW
NIKE FOOTBALLのショートフィルムです。夏のEURO2012に向けたコンテンツで、未来のスタープレイヤーを目指す若手選手たちの才能、ハングリー精神を後押しするかのような内容です。
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ブランド企業が動画コンテンツに力を入れる理由
日本では、動画コンテンツに力を入れる企業はまだ少ないですが、アメリカでは企業におけるYouTubeの利用意向が高まっています。Social Media Examinerの調査レポート「2012 Social Media Marketing Industry Report」によると、マーケターの76%がYouTube/動画の利用を増加させると回答しています。これはFacebook(72%)、Twitter(69%)、blogs(68%)、Google+(67%)、LinkedIn(66%)を抑え、ソーシャルメディアの中で1位です。
※参考:
2012 Social Media Marketing Industry Report
ブランド企業が動画コンテンツ(特にYouTube)を利用する理由は、他のソーシャルメディアとの相性、テレビCMと異なり時間の制約を受けない、動画技術の進化などあります。しかし最も大きな理由は、消費者のメディア接触のテレビからネットへの相対的なシフトによるものです。特に若者層においては、既にテレビよりもYouTubeの方が利用されているともいえ、スマートフォンやタブレットの浸透はこれに拍車をかけています。
動画コンテンツの目的と期待する効果
動画コンテンツの目的や期待する効果は、テレビCMのそれと似ています。
消費者のブランドに対する親近感やイメージを高める、ブランドの存在感を強化してブランドを想起してもらう、商品認知を向上させる、購入意欲を促進させる。動画コンテンツでも、このような効果が期待されています。テレビCMの目的として、消費者以外のステークホルダー、例えば取引先に対するアピールなどもありますが、動画コンテンツはこのような効果はあまり求められていないようです。
日本のブランド企業の動画コンテンツ
YouTube上には、もちろん日本のブランド企業の動画も多数あります。しかし、その多くは一般ユーザーによる投稿で、テレビCMがそのままYouTube上にあることも多いです。若者層を中心とした消費者のネットメディアへの接触割合の増加、消費者のYouTube利用の増加により、今後日本の企業でも、テレビCMをそのままアップするだけでなく、意図的に動画コンテンツを活用するケースが増加するだろうと考えています。
コンテンツマーケティングのためのオウンドメディア
いくつもの企業で、コーポレートサイトや商品サイトとは別に、オウンドメティアを運用しています。そのメディアの多くでは、例えば商品情報やキャンペーン情報(企業視点の情報)ではなく、特定領域における消費者の課題解決やお役立ち情報、専門ニュースメディアともいえる情報(消費者にとって有用な情報)が豊富に揃えられています。
「歯」に関する総合ポータルサイトを運営するコルゲート
日本ではあまり知られていませんが、コルゲートは歯磨き粉の世界トップシェアを占め、世界200カ国以上に進出するグローバルカンパニーです。Colgateは歯に関するポータルサイト「
Oral and Dental Health Resource center 」を運営し、このポータルサイトには動画、インタラクティブガイド、400以上の記事、eブックなどのコンテンツが用意されています。「歯」に関する何かしらの情報を求める消費者に対して、自社の専門的な知識に基づく有用なコンテンツが提供されています。サイトのカテゴリを見ても、「口臭」、「糖尿病とオーラルケア」、「歯科矯正」、「歯科検診」など、歯磨き粉そのものの情報(企業視点の情報)ではなく、消費者の悩みや気になることに関する情報発信(消費者が必要とする情報)していることが伺えます。
複数のコンテンツサイトを立ち上げるP&G
P&Gは、領域を明確に絞った複数のコンテンツサイトを運用しています。その一つがペットオーナー向けの「
Petside 」です。ペットのしつけ、ペットセラピー、健康管理の情報など、ペットオーナーが気にしそうな内容を提供しています。Petside以外にも、主婦向け家事情報サイトの「
Homemadesimple 」、ファッションや化粧などの美に関するサイト「
rouge 」なども運営しています。
様々なブランドとコンテンツキャンペーンを行うRefinery29
自社でメディアを立ち上げる動きの他に、既存もしくは新興の専門メディアとタイアップしてコンテンツを作る動きもあります。Refinery29(
https://www.refinery29.com/ )は流行に敏感な女性向けのファッションサイトです。月間訪問ユーザー数は260万人で、メディアとしてはニッチメディアの部類ですが、リピート性の高いコア読者を抱えています。Refinery29はトレンドファッションサイトの運用ノウハウ、つまり「いかに消費者の衣服の購入欲求を高めるか」を活用し、ブランド向けのタイアップコンテンツキャンペーンを行っています。その一つがアパレルブランドGUESSとのタイアップコンテンツです。このコンテンツは、インプレッションは100万ページビューを超え、2500以上のソーシャルアクションを生みました。
ブログ記事を書き続け1000万会員を超えたMint.com
自社メディアは、潤沢な予算を確保しうる大企業だけのものではありません。2007年にサービスを開始したベンチャー企業、個人資産管理ソフトのMint.comは継続的にコンテンツを提供し続け、それがビジネスに大きく貢献している好例です。個人資産管理は、直接的な需要を喚起しづらく(多くの人は節約し、資産を有効活用したいと思うが、資産管理ソフトを使いたいと思うわけでもない)、コンテンツを継続的に作るには一見難しそうな領域です。そこでMint.comは、個人資産管理ソフトの潜在利用者層であろう人たちが気にすること、つまり「個人資産に関するテーマ」で幅広いトピックについて継続的にブログ記事を書いていきました。その結果、個人資産に関連するブログとして最も有名になり、また個人資産関連の人気キーワードで検索すると、どういったキーワードであってもMint.comのページが上位表示されるようになりました。
自社メディアの目的と期待する効果
自社メディアの目的は、今すぐ購入したり具体的行動を起こす状態ではない潜在顧客層と継続的に接点を持ち続け、また既存顧客を惹き付けておくことです。例えばファッションや化粧などの美に関するサイトrougeの場合、商品購入は考えていないけれど、ファッションや化粧方法には興味がある、といったユーザー層との接点を持ち、美に関するコンテンツを楽しんでもらい、そのユーザーがコンテンツに接する中で自然に商品の良さや企業の存在を知るようになる。いざ商品を買おうとなったときに、自社や自社商品を思い出してもらおうとする、といったことを狙っています。個人資産管理ソフトMint.comの場合、ユーザーが個人資産に関する何かしらの内容を知りたいと思いGoogleで探す際に、検索結果に自社コンテンツが表示されるようにし、検索チャネルを通じて新たな潜在顧客層との接点を作ることも自社コンテンツの目的です。
情報を得たいときに得ようとする消費者
自社メディアと広告キャンペーンの大きな違いの一つは、時間軸です。広告キャンペーンは、そのタイミングを企業がコントロールできます。プレスリリースやメディア発表も企業がタイミングを決め、その結果メディアが取り上げるタイミングも実質的に企業がコントロールできる範疇と言えます(取り上げるかどうかはメディア判断)。しかしこれは、企業にとって都合の良いタイミングであり、個々の消費者の都合は全く考慮されていません。
例えば、自動車メーカーが大掛かりな広告キャンペーンを行うタイミングは有る程度決まっているでしょう。しかし消費者が自動車を買おう/買い替えようと思うのは、そのキャンペーンのタイミングではありません。免許を取ったとき、引っ越すとき、子供が生まれたとき、親の世話が必要になったとき、昇進が決まったとき、自身の趣味のため。個々の消費者が車を買おうと思うタイミングは、個々の消費者の生活に依存します。自社メディアのコンテンツは基本的に常設コンテンツであり、個々の消費者が情報を求めるときに見つけてもらえることで、その消費者にとってタイミングの良い有用な情報として認めてもらえる可能性を持ちます。
まとめ
この記事では、コンテンツマーケティングの「コンテンツ」はどういったもので、どのような目的を持つか、主にBtoC企業の事例を中心に説明しました。今回、是非覚えておいて頂きたいのは次の点です。
•動画コンテンツに力を入れる企業が増えている。
•自社メディアを運用する企業も存在する。特定領域における消費者の課題解決やお役立ち情報、専門ニュースメディアともいえる情報。
•自社メディアの目的は、今すぐ購入したり具体的行動を起こす状態ではない潜在顧客層と継続的に接点を持ち続け、また既存顧客を惹き付けておくこと。
•企業の都合の良いタイミングでの情報発信(広告キャンペーン等)ではなく、個々の消費者が必要なときに探してもらえるようにしておくこと。