この秋、セールスフォース社のビジネス&ソーシャルのブログサイト※で「消費者行動の変化に伴い台頭するコンテンツマーケティング」というトピックの連載を持たせて頂きました。その連載のGinzaブログへの転載許可を得たため、こちらにもその内容をアップします。
消費者とどう繋がり、どう関係性を強めるか
コンテンツマーケティングにおいては、コンテンツを見つけてもらい、広めてもらうことは重要であるものの、それだけではまだ十分ではありません。コンテンツ通じて、自社がリーチしたい消費者層の興味関心を惹き、自社に対する信頼感や特別感(ロイヤルティ)を抱いてもらいたいものです。今回の記事では、自社に対する信頼感や特別感を抱いてもらうべく、消費者とどうつながり、どう関係性を強めるか説明します。ただし消費者との関係性を強めるには、コンテンツマーケティング”だけ” では不十分なため、もう1段高い視点ともいえる、消費者との関係性を表す指標である「NPS」から説明します。
消費者との関係性を表す指標「NPS」とは?
NPSは、米国コンサルティング会社ベインアンドカンパニーのフレッド・ライクヘルド氏によって提唱され、「この会社(商品)を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」の回答をもとに算出される指標です。簡単に言えば、他者にどれだけお薦めしたいか、という「推奨意向」であり、顧客が企業に対してどの程度ロイヤルティを感じているかを表す指標です。
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エンパスリンク社のNPS説明図表より抜粋:
https://empathlink.co.jp/
NPSはなぜ利用されているのか?
様々な指標がある中で、NPSが選ばれるのは主に次の3つの理由によります。
• NPSのスコアと業績成長との相関が高い。
• NPS調査/分析を通じて具体的なアクションを見いだせる。
• 活動結果の進捗を把握できる。
業績成長と相関のある指標として、購買単価やLVT(Life Time Value)、業界によっては預金残高伸び率などの指標がありますが、そのような指標と比較しても、NPSと業績成長の相関が最も高い(NPSと業績成長の相関係数が高い)と言われています。NPSは消費者ロイヤルティを捉える指標であり、またNPSスコアと業績成長の相関が高いため、「消費者の関係性醸成(ロイヤルティ) ⇔ NPS ⇔ 業績成長」の関係が成立します。
NPS改善のための流れ
NPSは推奨意向であり、消費者との関係性を示す指標であるものの、NPSスコアを改善するための「関係性醸成」というアクション自体は存在しません。顧客が特定の会社や商品、サービスに対する体験を総称してカスタマージャーニーと呼びます。カスタマージャーニー上で感情を抱くタイミングは複数あります。それらタイミングを「真実の瞬間」と呼びます。NPS調査では顧客のロイヤルティがどこで、どの程度の強さで形成されるかを調査します。商品の使用体験はどうか、コールセンターの対応はどうか、友人からの噂や口コミはどうか、といった接点を調査します。それぞれの接点における、ロイヤルティのプラス要因とマイナス要因を調査し、その結果をもとに、特定のユーザーセグメント別に、ロイヤルティのプラス要因を加速させる施策、マイナス要因を改善する施策を、その強度も踏まえた優先度付けを行い実施していきます。
NPS改善のための施策
NPSは5年程前からアメリカを中心に利用されていますが、これまで実施されてきた施策の多くは、コールセンター、ロジスティックス(物流)、商品そのもの、に関するものです。コールセンターのオペレーターの対応改善は、プラス面を伸ばす目的で行われることが多く、どうすれば顧客が感動するか、満足度が高まるかを狙った施策が実行されます。顧客対応の一環として、ソーシャルメディアを用いたアクティブサポートが施策対象となることもあります。マイナス面の改善として、ロジスティックスに手をつけることが多いです。(日本と比較してアメリカは物流が整備されておらず、配送の遅れが不満につながる場合があります。)商品使用体験に関する不満を取り除くには、やはり商品そのものを変える必要がありますが、商品の周辺まで範囲を広げる場合もあります。例えば化粧品の場合、肌に関する情報(肌のケア、紫外線対策など)をWebメディアを通じて提供し、ソーシャルメディアを用いて肌の悩みを直接聞く施策などが行われます。
NPS改善のためのWebを用いた施策
顧客のロイヤルティ改善のためのWebを用いた施策は、実はアメリカでも比較的最近取り組まれています。Webを用いた施策は、人間系(人間が直接的に介在する施策)と、非人間系に大きく分けられます。人間系の施策としては、既述のソーシャルメディアでの直接的な対話やアクティブサポートの他に、コミュニティサイトを用いる場合もあります。運営するコミュニティサイトをNPSで評価する日本企業もあり、コミュニティの品質を上げための判断材料として、NPSスコアとその調査を用いています。非人間系の施策として用いられるのが、消費者に求められるコンテンツ提供です。コンテンツマーケティングの成功事例として取り上げられることの多い米国Mint.comにおいても、事業上のKPIの一つとしてNPSを用いています。
また、昨今アメリカで注目を集めているのが、レコメンドやビッグデータの活用やパーソナライゼーションです。アメリカでも事例はまだ見当たりませんが、専門家の間であつい議論が交わされています。
消費者との繋がりを醸成するためのEメール施策
個々の消費者に直接的にコンタクトでき、またパーソナルな施策が実施可能なのがEメールです。eCRMは、メールを用いて顧客との関係性をどう管理するかが思想としての始まりでした。しかし、気がついたら多くの会社で、クロスセル/アップセルをいかに効率的に行うか、を重視する運用がなされるようになっています。これはある種焼き畑的な施策であり、消費者との長期的な関係性を構築できない理由となっており、この点の改善が改めて重要視されています。
開封率15%の現実をいかに改善するか
業種により多少の違いはあるも、メールは読んでもらえるタイミングは大体決まっています。新規登録時、商品購入後のメール、情報を探しているとき(購入検討時期)の3つです。例えばコマースの場合、業種や取り扱い商材によって違いはありますが、メールの開封率は平均15%程度で、それは全メール配信リストの25〜30%程度で構成されています。言い換えれば、メール配信リストの7割は、自社のメールを全く見てくれません。メールを有効な施策とするためには、25〜30%をいかに増やすか、自社メールを見なくなってしまうユーザーをいかに減らすかが、まず大事になります。この点を大きく左右するのが、メール会員になった最初のタイミングです。良くあるパターンは、メール会員になった直後から販促メールを送り、メールが見られなくなる流れです。この点の改善方法は、いきなり販促メールを送り出すのではなく、初期段階で、自分たちがどういったブランドであるか紹介することにより、ブランドとメールの存在をきちんと認知してもらうことです。この初期段階での認知の有無、また初期数メールのコンテンツによって好印象を持ってもらえるかどうかで、先々の開封率に大きく違いが生まれます。
例えば米国Philosophy.com(化粧品通販サイト)でも同様の課題を抱えており、それを改善すべく次のようなメールを初期段階で送りました。
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このような自己紹介型のメールの後に、顧客情報を聞かせてもらい(肌質、肌の悩み、好みの香りなど)、その後のターゲティングメールに活用すると共に、嫌われないためのセグメント、つまり興味を感じなそうなメールは送らないようにします。
個々のユーザーにマッチするタイミングをいかに把握するか
初期段階でメールは見てくれたとしても、その後も継続的に見てもらうためには、そのメールコンテンツとタイミングが重要になります。メールの開封率は、メールタイトルの工夫により短期的に改善される場合もあります。しかし、長期的な関係をユーザーと築こうとすると、メールコンテンツが大事になり、個々のユーザーにどれだけマッチする内容を送れるかが肝になります。理想論を言えば、個々のユーザーにパーソナライズされたメールが一番ですが、現実問題として、例えば10万人に10万の別のメールを送るのはほぼ不可能であり、「ユーザー属性×嗜好×行動情報」に基づくセグメントメールが現実的な対応です。このことは、特にコマースやダイレクトレスポンス型ビジネスに携わる方にとっては目新しくはないでしょう。実際私自身も、5年程前にセグメントメールに関する仕事はしたことがあります。その仕事の思い出と言えば、ただただユーザーセグメント作りのためのデータ収集と加工が大変でした。購入利用実績、サイト訪問情報、メール開封情報などを、別々のシステムから収集、連携させ、そこにアンケートを通じて取得した嗜好情報を掛け合わせて、、、と、1度やるだけでも非常に骨の折れる作業です。
また、骨が折れるだけでなく、その作業をメール配信の都度行っていては、どれだけ効果が上がっても作業コスト的に問題があります。このような作業は手作業ではなくシステム的に行うべきものであり、例えば米国Responsys社のようなソリューションが求められるようになっています。メールのタイミングは、ユーザーが押し売りと感じないメールが一つのポイントです。例えば米国Verizon社(通信会社)の場合、プリペイドの残額通知メールのように、ユーザーの携帯利用実態に合わせたメールを送っており、「この会社のメールは見ておいた方が良いぞ」と思ってもらうことに一役買っています。また、実店舗訪問後のフォローアップやカスタマーサポート利用後のメールなど、カスタマーサービス観点のメールも送ることで、長期的な関係を築こうとしています。メールは、販促チャネルであると同時に、コミュニケーションチャネルであり、サポートチャネルである、という考え方に立つことが、消費者との長期的な関係性の醸成のために大事になります。
まとめ
今回の記事作成にあたり、NPSについては株式会社エンパスリンク高見氏に、Eメール施策についてはResponsys社の鈴木氏に情報提供頂きました。
高見氏はNPS認定資格の日本人最初の取得者であり、NPSの導入/活用実態に詳しいです。
株式会社エンパスリンク:
https://empathlink.co.jp/
鈴木氏は、米国Responsys社の日本地区の責任者であり、Responsys社は世界300社以上で導入されているクロスチャネル・キャンペーンマネジメント・プラットフォーム Responsys Interact Suiteを提供しています。
Responsys Japan:
https://www.facebook.com/ResponsysJapan
日本においては、2012年に入って「コンテンツマーケティング」という言葉自体が聞かれるようになり、その有用性を調査/検討し始める企業も徐々に増えつつあると感じます。コンテンツマーケティングを構成する個々の施策、動画コンテンツやソーシャルメディア、ブログや記事コンテンツやSEOといったものは、これまでも企業のマーケティング活動として行われています。しかし、企業目線の情報提供ではなく消費者が求める情報提供、広告主としての立場ではなく出版者(パブリッシャー)のマインドなど、これまでとは異なる戦略、目線、コンテンツの作り方、運営体制などが求められます。「伝統的な広告は、コンテンツの邪魔をしてきました。現在の環境において考え、問いかけるべきは『あなた自身がいかにコンテンツの一部になれるか?、消費者の日々の生活の中にどうやって入り込み、消費者の経験を損ねるのではなく、より価値あるものにことができるか?』です。」これはジョンソン&ジョンソンのグローバルマーケティンググループ担当副社長のKim Kadlec氏のコメントです。コンテンツマーケティングの最も重要な意識変革は、このコメントに凝縮されていると感じます。