ECサイトでも、オウンドメディアを運営し始めるところが増えてきました。ECサイトに限らず、事業会社がオウンドメディアを運営する目的は、潜在顧客との接点作りやファン獲得が主要な目的になるため、販売に直結する施策を重視するECサイトにとっては、異質な施策と言えるかもしれません。
しかし、一部のECサイトでは、売場のECサイトのSEO対策や各種の購入支援機能を充実させた上で、オウンドメディアを運用し、より幅広い顧客へのアプローチを始めています。今回は、そんなECサイトが運営するオウンドメディアの記事コンテンツについて、3つの特徴的なパターンを紹介します。
パターン1. 商品の選び方を紹介するコンテンツ
ECサイトのオウンドメディアに多いコンテンツの1つ目は、商品の選び方を紹介するコンテンツです。これは販売タイミングに近いコンテンツであるため、ECサイトによっては、オウンドメディアではなく、売場のサイト内に置かれているケースも多いでしょう。売上に近いコンテンツという意味で、比較的、取り組みやすいコンテンツと思われます。
ファッション通販サイト“BUYMA(バイマ)”のオウンドメディア、STYLE HAUSの事例
ファッション通販サイトBUYMA(バイマ)が展開するオウンドメディア、STYLE HAUS。雑誌感覚で読める画像を多用したコンテンツ形式で、ファッション、ビューティ、ライフスタイルのテーマを中心に、自社ECで販売する商品に関するコンテンツを展開しています。
コーディネートを紹介するコンテンツが非常に充実しています。例えば、「スタイルがグンと垢抜ける!春の必需品「白スニーカー」の今すぐ使える”最新”コーデ術」では、白スニーカーを使ったコーデ術を紹介しています。スニーカーのブランド毎にコーデ術を紹介し、白スニーカーをどんなファッションとコーディネートすれば良いのかを教えてくれています。
ブランド毎のスニーカーでコーディネートを紹介
参照:
STYLE HAUS
メガネ通販オーマイグラスのオウンドメディアOMG PRESSの事例
メガネ通販オーマイグラスが展開するメガネスタイルマガジンOMG PRESS。メガネ・サングラスのすべてが詰まったメガネスタイルマガジンとして、ニュースやトレンド等も幅広くコンテンツ化しています。その中でメガネの選び方を紹介するコンテンツも数多くあります。
例えば、「自分に似合うフレームを探すには?‐メガネの種類と選び方のポイント‐」では、 顔の形に応じた似合うフレームの選び方について紹介しています。ウェリントンタイプ、スクエアタイプ、オーバルタイプと色々な種類のフレームがある中、自分の顔に合っているフレームの種類を選ぶことができます。同社は「自宅で試着サービス」を提供していますが、試着するメガネを選ぶ上で参考になるコンテンツにもなっていると思います。
メガネフレーム毎に選び方を紹介
OMG PRESS
ファッション・日用品の通販サイト、ディノススタイルマガジンの事例
ファッション・日用品の通販サイト、ディノスが手がけるオウンドメディア、ディノススタイルマガジン。ファッション、ライフスタイルのテーマを中心に、記事を紹介しています。
例えば、「祝卒入学! 母たちのフォーマルシーン着こなしマナーとは?」の記事では、卒業式・入学式での着こなしノウハウを紹介しています。卒業式・入学式は、母親向けファッションの一大イベントで、どのECサイトも力を入れますが、同社は、単に商品を並べるだけでなく、慣れない母親向けに、着こなしのマナーを洋服・小物についてもしっかり紹介しています。
フォーマルシーンの洋服・小物の選び方を紹介
参照:
ディノススタイルマガジン
パターン2. 商品の新しい活用機会を提案するコンテンツ
ECサイトのオウンドメディアに多いコンテンツの2つ目で挙げるのは、商品の活用機会や購入機会に気付きを与えるコンテンツです。商品やサービスによっては、あまり知られていない活用機会を持つものがあります。そういった機会にコンテンツを通じて気づいてもらうことで、検討顧客を増やそうという試みです。
日本酒定期購入ECサイトのオウンドメディアNOMOOOの事例
一風変わったECサイトとして、日本酒の定期購入のECサイトを展開するリカー・イノベーション。オウンドメディア「NOMOOO(ノモー)」を展開しています。オウンドメディアでは、潜在層との接点を増やすためと思われる、お酒を飲みたくなる機会を増やすコンテンツを展開しています。
例えば、「酒呑みには定番!おウチで作れる厚揚げレシピ10選!」では、お酒ではなく、厚揚げを使ったおつまみのレシピを紹介しています。おいしいおつまみを知り、そのおつまみに合うお酒を探すことで、普段飲まないお酒にたどり着く機会が作れていると思います。
日本酒に合うおつまみを提案
参照:
NOMOOO
スムージーのための野菜宅配通販、ベジオベジコの事例
こちらも一風変わったECサイトの事例です。スムージーを作るための野菜セットを宅配する通販サイト「VEGEOVEGECO(ベジオベジコ)」では、レシピコンテンツを展開しています。
「風邪予防にぴったり!柿・スターフルーツ・レモン・ぽんかんのスムージー」 の記事のように、レシピを紹介するコンテンツを通じて、スムージーに関心のある潜在ユーザーとの接点を持とうとしていると考えられます。通常、スムージーは美容のために飲むことが多いと思いますが、この記事では風邪予防という新しい切り口を提案しています。記事内では、スムージーで使う各食材の栄養成分や効能を紹介しています。おいしいだけでなく、体にも良いという新しい側面に気づかせてくれるコンテンツだと思います。
スムージーによる体調管理を提案
参照:
ベジコベジオ
エンゲージリングENCHANTED Diamonds の事例
ENCHANTED Diamondsは、エンゲージリングを専門に販売しているアメリカのECサイトです。ECサイトとは別で、記事コンテンツを展開しています。エンゲージリングを購入する機会は、人生でもごく限られているため、潜在層との接点を持つことを目的として、コンテンツを展開していると考えられます。
通常、婚約・結婚の時に購入するエンゲージリングを「Valentine’s Day Tips!」として、バレンタインのプレゼントとして指輪を贈ることについてのTipsを紹介しています。日本ではバレンタインは女性から男性にチョコレートをあげる日として定着していますが、アメリカのバレンタインは男性から女性にプレゼントを贈る日とされています。記事内ではハート形のジュエリーを贈ること、ダイヤモンドに刻印をするといったTipsを紹介しています。
バレンタインに指輪をプレゼント
参照:
ENCHANTED Diamonds
パターン3. 顧客の課題解決に特別にフォーカスしたコンテンツ
ECサイトのオウンドメディアに多いコンテンツの3つ目は、顧客の課題解決にフォーカスしたコンテンツです。マーケティングで活用するコンテンツは、顧客に対して何らかの課題を解決すものだと思いますが、ここで紹介するコンテンツは、課題解決に特に強くフォーカスしています。
それにより、自社の商品に関連する情報提供だけではアプローチできなかった層にまで、幅広く提案できるようになります。顧客の課題によっては、他社の商品やサービスを紹介することが、ベストな課題解決になるケースもあります。課題解決にフォーカスした方針を貫くことで、幅広い層からの支持を獲得することができます。今回紹介する3つのパターンの中では一番、長期的なリターンを狙ったコンテンツということになるでしょう。
ガシー・レンカー・ジャパンのオウンドメディア、ニキペディアの事例
ニキビケア商品を販売するガシー・レンカー・ジャパンのオウンドメディア「ニキペディア」。テーマとしてニキビにフォーカスし、ニキビのそれぞれ悩みに対するアンサーを記事コンテンツ化しています。
ニキペディアのコンテンツでは、読者の悩み解決にフォーカスし、自社以外の商品や治し方も紹介しています。ニキビに悩む人の解決に寄り添う姿勢がみられます。
例えば、「自宅で背中ニキビを治そう!あなたが選ぶ【3つの方法】」では、背中ニキビの治し方について、洋服・お風呂・スキンケアの3つの方法を紹介しています。驚くべきことに、この記事の中で紹介されている化粧品を含む商品は、自社で販売していないものがほとんどです。記事内で紹介している9商品の内、化粧品以外の洋服・タオル等が4商品、化粧品が5商品ですが、自社のニキビケア商品の紹介は1つのみであり、顧客の課題解決を優先していることが伺えます。
ユーザーの課題解決のため自社で販売しない商品も紹介
ニキペディア
ドクターシーラボのオウンドメディア、美肌総合研究所の事例
皮膚の専門家が作ったメディカルコスメ、ドクターシーラボが展開するオウンドメディアである美肌総合研究所。肌の悩み解決にフォーカスしたコンテンツを発信しています。例えば、「目の周りの乾燥対策~赤み・かゆみ・小じわを防ぐ方法まとめ~」の記事では、目の周りが乾燥しやすい理由、症状とその原因、乾燥対策を紹介しています。記事の中では、「免疫力を高める生活」の提案等、商品紹介ではなく、ユーザーの課題解決に寄り添った内容になっています。
読者の課題解決のための情報にフォーカス
参照:
美肌総合研究所
ECサイトのオウンドメディア記事コンテンツ展開まとめ
ECサイトでは販売(コンバージョン)が重要視されるため、認知やファン獲得を目的としたコンテンツへの投資は、他業界に比べて少なかったと思います。しかし、一部のECサイトでは、ファッション、美容を中心に、オウンドメディアの運用が始まっています。ECサイトのオウンドメディアのコンテンツの特徴を、今回は3パターンで紹介しました。
1. 商品の選び方を紹介するコンテンツ
単に商品を紹介するだけではなく、商品の選び方も紹介し検討度を高める。
2. 商品の新しい活用機会に気づいてもらうコンテンツ
顧客が気づいていなかった新しい商品の活用機会を提案し、検討機会を増やす。
3. 顧客の課題解決に強くフォーカスしたコンテンツ
自社商品の紹介ではなく、顧客の課題解決を優先し、ファンを獲得する。
売場のECサイトのサイト構造の整理やコンテンツの充実が一段落した段階で、今回の事例などを参考に、より幅広い顧客層へのアプローチを検討してみてはいかがでしょうか?