アメリカのコカ・コーラやP&Gがマーケティングの中心に据えるコンテンツマーケティング。アメリカで流行るネット関連のことは2、3年後に日本にも流れが来ることが多いため、近いうちに日本にもその流れが来るだろうと考えています。
ではそれはいつでしょうか?
今回のブログ記事では、大企業(特にブランディングを大事にする大企業)がいつコンテンツマーケティングに本腰を入れるべきかの見解をまとめます。
コカ・コーラやP&Gがいつコンテンツマーケティングに舵を切ったか?
コカ・コーラのコンテンツマーケティング
コカ・コーラのグローバル広告戦略責任者のJonathan Mildenhallにより2011年10月に「Content 2020」が発表され、「クリエイティブエクセレンス」から
「コンテンツエクセレンス」への進化が打ち出されました。それは伝統的な広告手法からの脱却であり、よりコラボレーション的なアプローチ、例えばクラウドソーシング、FacebookやTwitterのファンとの取り組み、アーティストや音楽/映画業界との協業、などによるコンテンツ作りの採用です。
この方向性のもと、例えば2012年のロンドンオリンピックのスポンサー活動として120以上のコンテンツを作り出す予定であり、3つのテレビCMと6つの屋外広告を打ち出した2008年の北京オリンピックから大きく変わります。
※参考:MarketingWeek記事「
Creative content will fuel Coca Cola’s growth」
ただコカ・コーラがコンテンツマーケティングに舵を切ったのは更に数年前で、2009年の9月にCMOのJoseph Tripodiが「Coca-Cola’s marketing will evolve into content management(コカ・コーラのマーケティングはコンテンツマネジメントに進化する)」と発表しています。
(発表するからには、少なくとも更に数年前から実証的な取り組みを繰り返し行っていたはずです。)
※参考:MarketingWeek記事「
Coca-Cola CMO sees digital marketing as vital」
P&Gのコンテンツマーケティング
P&Gがマーケティング部門含めた1600人のレイオフをすると先日発表したのは記憶に新しいですが、やはりそこでもCEOによりデジタルマーケティングへのシフト発表されています。

FacebookやGoogleなどのメディアにより、デジタルマーケティングの投資がより効率的であることが判明。伝統的テレビ広告への投資を削減し、デジタル領域に注力していく形です。
※参考:WebStrategy記事「
P&G Layoffs Signal Forcus on Digital Industory」
ただP&Gのこの動きも今に始まったわけではなく、例えば2010年の終わりにはNew York Timesに「Procter & Gamble Moves from Soap Operas to Tweets」という記事もあり、伝統的広告からデジタル領域へのシフトは数年前から始まっていることがわかります。
日本の大企業はいつコンテンツマーケティングに舵を切るべきか?
翻って日本を見てみましょう。マーケティング関連の大きな流れを捉えるのに便利なのは、やはり電通が毎年発表する「日本の広告費」です。
【
Garbagenews.comさんがまとめた媒体別広告費の構成比推移】

この数字を見ると、確かにネットの重要性は徐々に高まっていることがわかるも、まだまだ伝統的な4マスが割合として高いことがわかります。つまり、コンテンツマーケティング(デジタルマーケティング)を中心に据えるにはちょっと早いんじゃないか?と思えます。
それでは別の調査データを見てみましょう。博報堂のメディア環境研究所さんが定点調査している「メディア定点調査」の中のメディア接触総時間です。
消費者の状態に対して、どう対応するか判断を経たものの一つが広告費です。そのため、日本の大企業がコンテンツマーケティングに舵を切るべきかどうかを判断するには、広告費の状態からではなく、消費者の状態から判断する方が妥当だろうと考えます。
【メディア接触時間・時系列変化:東京地区】

これを見ても、テレビはなんだかんだ一番影響力があるじゃないかとか、やはりネットは伸びているとかわかります。
注目すべきは、時間ではなく
構成比であり、全体ではなく
属性別(性別や年齢)であり、伝統4メディア対ネットメディアです。セグメントを切って見てみましょう。
【メディア接触時間・時系列変化:4マス対ネット(10代、20代の男女:東京地区)※】
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この消費者層の場合、メディアに対する接触割合は、4マスとネットでほぼ同等です。とても重要なので繰り返し書きます。
「メディア接触時間は、4マスとネットでほぼ同等」です。この層を主たる顧客とする企業は、今すぐにでもコンテンツマーケティングに本腰を入れる方が良いと感じます。
ブランディングを大事にする大企業では、マーケティング投資、特に宣伝/広告/プロモーション関連投資は、現時点ではネット関連よりも4マスの方が圧倒的に多いと思います。これをメディア接触時間の割合に近づけるべく、ネット関連施策つまりコンテンツマーケティングにシフトしていくべきではないか、というのが「コンテンツマーケティングに本腰を入れる」の意味合いです。アメリカも似たような傾向で、かつ日本よりもデジタルシフトが進んでいる状態です。
コカ・コーラのコンテンツマーケティングへの注力は、何か特別で革新的なことに取り組んでいるわけでなく、消費者の動きをきちんと捉えた常識的な判断だろうと思えます。
【メディア接触時間・時系列変化:4マス対ネット(30代、60代の男女:東京地区)※】
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30代が主たる顧客である企業も、そろそろコンテンツマーケティングに軸足を移し始めても良いように感じます。
逆に団塊世代が主たる顧客である企業は、まだまだ様子見の段階でしょうか。4マス接触割合が非常に高く、4マスの影響力は依然として大きいです。
もちろん上記の数字は東京地区であり日本全体を表していませんし、またメディア別の情報の信頼度や影響度は勘案されていません。
しかし、若者層(30代以下)ではメディア接触の動向は、ここ数年で急激に変わってきていることは間違いなく、デジタル領域/コンテンツマーケティングへのシフトは今だろうと考えます。
今の30代以下の若者層はネット接触時間の割合が高い(4マス接触時間とほぼ同等)、これがコンテンツマーケティングに取り組むべきたった一つの理由です。
(消費者は広告を以前より嫌うとか、友人の推薦を信用するとか、どういった質的/情緒的な部分もありますが、量的/数字的な部分は、コンテンツマーケティングに早期にきちんと取り組むべき理由です。)
※メディア環境研究所の
メディア定点調査2008、
2009、
2010、
2011調査結果を元に作成。
【メディア接触時間・時系列変化:メディア環境研究所の調査結果のまとめ】
ではまず何をすべきか?
コンテンツマーケティングを行うためには、何を作るか誰が作るかといった議論は必要です。どういったチャネルを使うか、どういうスキルが必要か、アウトソースはどうするか、教育はどうするかなどの検討も必要です。
ただ、そのような個別検討を行う前もしくはその前提として、
コンテンツマーケティングをマーケティングの中心に据えるという会社としての判断と、それと整合の取れた予算配分と体制の構築が最上位ですべきことです。(どういったコンテンツを作るか、誰が作るか、はその下位階層の判断になります。)
私自身、少しずつではありますが「コンテンツマーケティングが大事だと思うが、何をどうすれば良いのか?」とWebを統括する方から相談を受けるようになりました。そして相談内容は必ず「今も作業でぱっつんぱっつん、誰がそのコンテンツを作るの?、アウトソースしたらコストかかるけど予算がないよ。」を含みます。
Webを統括する責任者/現場責任者としてコンテンツマーケティングに対する検討を行うのは、消費者の動向に対してアンテナが立っている証拠ですし、様々な業務を抱える中でマーケティングやネットの動向も押さえて本当に凄いなあと思います。
ただ、統括範囲がWebの場合、Web関連予算の範囲内での施策組み替えに留まらざるを得ず、やりたくてもやれないといった状態になりやすいです。やはりWeb統括者としての判断を超えて、コンテンツマーケティングをマーケティングの中心に据えるという会社としての判断が必要だと思います。
と、ここまでは現場の実情を無視した正論で書きました。
「コンテンツマーケティングが重要だからマーケティングの中心に据えて、予算の配分もがらっと見直すべきだ」と経営層に進言したとしても、「おおそうか、では来期からそうしよう」と経営層がダイナミックは判断を行うことは、さすがに滅多にありません。
現実には、経営層に対する説明と説得を少しずつ、かつ継続して繰り返し行い、それと並行してご自身が統括する領域と予算の範囲内、もしくは一階層上の上長を巻き込んだ形での、コンテンツマーケティングへの実証的な取り組みを開始する、といった形になるように感じます。
その場合、何をするかと同等のレベルの検討項目が、既存のどの施策の予算を減らすかの検討です。予算が一定であるとの前提がある場合は、何かを増やす場合、その反面何かを減らすことが必要です。
まず何をすべきかの現時点での解は、以下の3点だろうと思います。
1:「コンテンツマーケティングをマーケティングの中心に据えるという会社としての判断と、それに見合った予算配分と体制の構築」について、経営層に対する説明と説得を少しずつ繰り返し行う。
2:(1の承認/決定までの間は)ご自身の統括範囲内の、既存のどの施策の予算を減らすか検討して決定する。
3:実施するコンテンツマーケティングの具体的狙い/内容/費用感を検討して決定する。