リリー・レイ氏講演「2025年のAIサーチとSEOを紐解く」解説

FOUND Conf 初日のキーノートを務めたリリー・レイ氏。日本滞在中に別のカンファレンスにバーチャル登壇するなど、多忙を極めていたが、素晴らしいプレゼンテーションを披露してくれた。改めて彼女が語ったことを振り返りたい。(執筆:室屋 武尊)

「AI の登場以降、めまぐるしい日々ですよね。次々と新しい専門用語が現れています。プロンプトエンジニアリング、LLMs.txt、ベクトル、クエリ・ファンアウト… 」リリーの言葉に参加者は頷く。専門用語や新語に翻弄されるのは、日本も海外も同じなのだ。

「結局のところ、AI 検索で何が変わったのか?まずはそれについて一緒に確認しましょう」

OpenAI を猛追する Google

リリーはまず、ChatGPT は成長が頭打ちになりつつことを指摘した。新規ユーザー獲得が鈍化しており、さらに平均滞在時間も 7月以降約 22.5% 減少している。そんな中、リリーが注目しているのは Gemini だ。5月の Google I/O 以降、ユーザーが急増しているという。

Google/ Gemini について理解するために、彼女は同社の主要人物の発言を引用した。

リズ・リード氏(検索部門責任者)
「検索クエリ全体は依然として増加し続けており、しかも質の高いクリックをサイトに送っている」といくつかのメディアで強調。AI は検索を置き換えるものではなく、検索を拡張し再発明するものだと説明している。

ロビー・スタイン氏(検索部門幹部)
リズ氏と同様に、AI は拡張だと表現。AI 登場によって検索行動は大きく変わっておらず、「AI 検索は検索行動の新しいレイヤーを作り出す」と彼はビジョンを述べた。
Inside Google’s AI turnaround: AI Mode, AI Overviews, and vision for AI-powered search | Robby Stein

ローガン・キルパトリック氏(AI Studio 主任)
X において、近いうちに AI モードが Google のデフォルトになるかのような発言をし、のちに訂正した。AI モードをいつ、どのように普及させていくのか議論の最中なのであろう、とリリーは考えを述べた。

Google のキーパーソンの発言をふまえ、改めてリリーは「Google は終わった」という見解に疑問を呈した。Google のユーザーは減少しておらず、むしろ AI は同社の新たな目玉商品になるだろう。今後は新機能として、ウェブガイド、Chrome へのビルトイン、Google AI Ultra ユーザー限定のエージェントなどが続々投入される予定だ。

ChatGPT に代表される AI ブームよりも、これから来る Google の新機能のほうが私たちに大きな影響を与えるかもしれない。

AI検索の課題

一方で、Google のすべての発言を鵜呑みにしてはならない。彼女は GSC データを紹介しながら、アッパーファネル・クエリ(情報収集型検索)においては、AI オーバービューは深刻な脅威だと述べた。いくつかのサイトには大打撃となっている。

AI は別の点でも我々に大きな影響を与えている。2025年9月には Google が num=100 パラメータを廃止。これは検索結果を100位まで表示させる機能で、AI ベンダーの情報源となっていた。num=100 パラメータを使うボットが実質的に無効化されたため、GSC のデータがおかしくなる二次被害もあった。GSC の表示回数が減少し、平均順位が上昇したのだ。

AI ボットの問題は深刻だ。Cloudflare の発表によると、Crawl-to-Visit Ratio(AI ボットとユーザー訪問の比率)は 11.8 だという。つまり 1 訪問に対して 12回の AI ボットクロールが発生するということだ。

「AI ボットが頻繁にクロールしてくるのに対し、私たちは見返りとしてのトラフィックをほとんど得られない」と彼女は指摘した。我々はサーバー費用を負担し、コンテンツを提供しているのに、AI 企業にタダ乗りされている。AI 検索はウェブマスターたちと対立する構造となるが、新しいエコシステムを作ることができるのだろうか。

The crawl before the fall… of referrals: understanding AI’s impact on content providers
Cloudflare Radar now shows how often a given AI model sends traffic to a site relative to how often it crawls that site. This information can help site owners make decisions about which AI bots to allow or block, and enables users to understand how AI usage in aggregate impacts Internet traffic.
blog.cloudflare.com
The crawl-to-click gap: Cloudflare data on AI bots, training, and referrals
By mid-2025, training drives nearly 80% of AI crawling, while referrals to publishers (especially from Google) are falling. GPTBot and ClaudeBot surged, Amazonbot and Bytespider collapsed, and crawl-to-refer ratios show AI consumes far more than it sends back.
blog.cloudflare.com

AI 対策は必要なのか

「SEOは死んだ」という言説には疑問を持とう。AEO/ GEO と呼ばれる新ジャンルについて、懐疑的な点をリリーは指摘する。

Authoritas などの調査を参照しながら、AI オーバービューと検索順位が相関していることを紹介した。現時点では、AI が検索エンジンを使っているのが実情だ。この状況を冷静に見るなら、通常の検索で上位を目指すのが一番の近道と言わざるを得ない。

また、彼女はダニー・サリバン氏のプレゼンを引用した ― Good SEO is good “GEO” 。シンプルにすべてを語っている。

Google’s Danny Sullivan: ‘Good SEO is good GEO’
Google’s former search liaison says SEO is still about doing good things for people. He also addressed concerns about clicks dropping.
searchengineland.com

リリー自身、代理店として AI 対策のパッケージは作る予定はないという。SEO とは別の「裏技」を探すのはやめましょう、とオーディエンスに呼びかけた。

Google は依然として圧倒的に重要

Sparktoro のデータによると、Google は ChatGPT の 210倍の検索量だと推計されている。グレン・ゲイブ氏は AI 検索は流入の1%に過ぎないとし、Google を無視するのはリスキーだと指摘している。SimilarWeb や SEMRush の調査によると、ChatGPT ユーザーの 95% は Google 検索を利用していることや、ChatGPT ユーザーの方が Google 検索の量が増えることを示している。

Google の重要性を強調しつつも、リリーはこう語る。「多くの人は Google か ChatGPT かを選んでいるわけではありません。むしろヘビーユーザーであれば、両方を使いこなすでしょう。だからマーケターとしては、あらゆる場所に露出する努力をするべきです(Be everywhere)」。

クエリ・ファンアウトで焦らないように

AI 検索のバックエンドで重要な働きをしているとされ、注目を集めているのがクエリ・ファンアウトだ。ユーザーの質問に対し、同時に関連する質問を裏で並列処理している。ユーザーが何度も検索し直さなくても、先回りして包括的な回答が提供できるのだ。確かに興味深い技術ではあるが、結局マーケターの仕事は検索ニーズを突き止めることだ。これは従来の SEO と大きく変わらないとリリーは指摘する。

クエリ・ファンアウトについては、すでに無料のツールも多数公開されており、当社のベータ版機能も紹介してくれた。我々は十分な武器を持っているということだ。

NotebookLM を使う方法も披露してくれたのだが、日本語のドキュメントも用意してくれたようだ。リリーから共有されたすべてのシートを記載しておくので、ぜひチェックしてほしい。

NotebookLM Query Fan-Out Generator
Branded Questions for AI Search Visibility Checklist
Pages to Build for E-E-A-T & AI Search Visibility

リリーから言わせると、クエリ・ファンアウトは諸刃の剣でもある。良い点は、ロングテールの究極系であることだ。Hidden Gems と合わせることで、良いものは隠れていても見つけられるようになる。一方で懸念点は、流入経路がわからなくなることだ。ユーザーが「旅行プラン」を検索して、ファンアウト経由で「レストラン」のページに流入することがあるだろう。その場合、GSC から検索行動を読み解くのは困難だ。

AI コンテンツの弱点

2024年3月のアップデートから、Scaled Content Abuse(大量生成コンテンツの悪用)が導入された。AI で何百ものページを生成して急成長する例はいくつも報告されているが、ポリシー違反となる。ある日突然インデックスを削除されたり順位を落とすケースが相次いでいるという。

そもそも、AI で作られたコンテンツはコモディティ化し、似たりよったりで価値がないという問題もある。E-E-A-T の最初の E(Experience、経験)の観点で、 AI には限界がある。AI は失敗談を語ることができない。

「AI コンテンツの海の中では、 “私” を主語とするコンテンツが生き残るでしょう」「AI を使うなと言っているわけではありません。AI はコパイロットであって、オートパイロットではないのです」とリリーは強く語った。

Hidden Gems と UGC

最近の Google 検索では掲示板サイトの Reddit や Quora が急上昇する傾向にある。リリーは先の話に接続し、Experience が重要なのだと述べた。かつて Google は企業公式サイトなどを高く評価する傾向があったが、リアルな個人的体験談を評価するように変化している。

その源流は、Hidden Gems だとリリーは指摘する。Hidden Gems は直訳すると隠れた宝物の意で、穴場やあまり知られていないが素晴らしいものを指す。Google は 2023年11月のアップデートの一部として、この機能を公開。2024年にはコアアルゴリズムに組み込まれた。

Google Search ranking improvement aims to surface hidden gems
Google will surface personal insights and experiences from social media blog posts and forums. This is not an updated helpful content update.
searchengineland.com

Hidden Gems は、体験談や他サイトにない詳細情報、「私」視点での考えが述べられていること、議論が起こっていることなどの特徴を読み取り、コンテンツ評価のウェイトをかけていると推測されている。

ブログやレビュー、掲示板などの UGC が重要性を増しているとリリーは説明する。

真のマーケターを目指そう

ではどうすればいいのか?トリプルモデルや PESO(Paid, Earned, Shared, Owned)と呼ばれるメソッドを見直そう。リリーは下記のようにメディア戦略を整理した。

オウンドメディア:真実のソース
AI がハルシネーションを起こさないように正しい一次情報を発信する場。

アーンドメディア:信頼の証明
他社からの評価。権威性や専門性を第三者に言及してもらう場。

ソーシャルメディア:本音と議論
ユーザーに本音や議論を共有してもらう場。

リリーは Google の特許 Implied Links(暗黙的リンク)にも触れた。これは、リンクがなくても言及をリンクのように価値づける技術だ。dofollow の本数がすべてだった時代は終わりにしよう。キーワードをハックするのではなく、どのように語られるかが重要だ。真にマーケティングを実践する企業だけが勝つのだとリリーは熱を込めて語った。

テキスト以外のフォーマット

アーンドメディアや UGC に加え、さらに新しいフォーマットにも配慮が必要だ。例えば、最近は検索結果画面において YouTube の存在感が増している。

YouTube は動画をアップロードすると即座に書き起こしデータを作成する。これを読み込めば Google および Gemini は動画の内容を理解できる。その結果、AI オーバービューにも YouTube が多数表示されるようになり、何分何秒あたりに答えがあるとタイムスタンプまで提示されている。私たちはテキスト以外にも動画や音声など様々なフォーマットで情報発信することを検討すべきだろう。

魔法なき時代を生き残るには

リリーは「魔法の杖はもうない」と結論づけた。泥臭く、人間臭くやるのが唯一の勝ち筋だ。AI によって様々な変化は起こっているが、どれも昔から言われていることと変わらない。昨今の変化は、ただ裏技がなくなってしまったというだけのことなのだ。

「Google は死んでいないし、SEO も死んでいない。ただ、劇的に進化しています。だから私たちも進化し続けなければなりません」そう言って、リリーは結んだ。

帰国後には Moz Con に登壇し、日本の講演とは異なる資料になっていた。泥臭くやるしかない、と語った彼女のプロフェッショナル精神を見せつけられた。