2026年夏、Google と SERP データをめぐって何が起きたのか

AI は、質問を受けるとウェブを検索し、その結果をもとに回答を組み立てます。LLMO や GEO の議論でもよく取り上げられる仕組みです。そして、Google は、他社の AI に自社の SERP(検索結果画面)が使われることを良く思っていないようです。

その結果、この夏は Google によるサマー・オブ・ラブとも言うべき、忘れられないものになりました。多くのベンダーは沈黙していますが、私たちには説明責任があると判断しました。可能な限り、この夏に起こった出来事を解説します。まず、業界であまり語られない 7月の出来事から振り返ります。

NetNut の差し押さえ

検索結果を大量に取得する事業者の多くは、プロキシと呼ばれる中継サーバーを経由してアクセスしています。近年は AI 企業の需要で市場が急速に拡大しています。中でも NetNut は、住宅用プロキシの分野で世界最大級の事業者のひとつでした。米ナスダックに上場するイスラエルの Alarum Technologies は、その親会社です。

2026年7月2日、FBI は NetNut に関連する数百のドメインを差し押さえました。公式サイトは FBI の差し押さえ通知に置き換えられています。

netnut.com

この件には、Google の脅威インテリジェンス部門、Google Threat Intelligence Group(GTIG)が関与しています。米通信大手の Lumen や、セキュリティ団体の Shadowserver Foundation も参加しています。

Google は、NetNut が少なくとも200万台の端末を不正に組み込んでいたと主張しています。対象の多くはスマートテレビや Android の TV ボックスです。利用者の十分な同意がないまま、中継点にされていたようです。GTIG によれば、2026年6月には、わずか1週間で、316の攻撃者グループが NetNut の中継点を使っていました。

Google はあわせて、NetNut が使っていた Google アカウントを停止。Google Play プロテクトでも、該当する SDK を含むアプリに警告を出し、無効化する措置を取っています。

一方で、Alarum は疑惑を否定しています。翌日の開示では、FBI を含むどの当局からも正式な連絡は受けていないと説明しました。つまり差し押さえは事実だが、なんらかの容疑者として告発されたわけではないということです。同意取得の仕組みや顧客審査、不正利用の監視を運用してきたとも述べ、捜査への全面協力を表明しています。とはいえサービスは一時停止に追い込まれ、株価は1週間で約3分の2を失いました。

実は、Google が住宅用プロキシ網に対して大規模な措置を取ったのは、今年に入って2度目です。1月には IPIDEA というネットワークを摘発しています。行き場を失った利用者の受け皿のひとつが、NetNut だったとされています。

NetNut が実際に犯罪に加担していたのかはわかりません。ただ、個人的にはこの件について、懐疑的です。Google のレポートが焦点を当てているのは攻撃者による悪用で、プロキシの正当な利用を否定しているわけではないからです。

確かなのは、世界のプロキシ網から大手が一社消えたことです。Google のレポートによると、住宅用プロキシブランドの多くが、NetNut の回線を自社ブランドで再販していたようです。直接の契約がなくても、仕入れ元をたどると NetNut だったという事業者は少なくありません。影響は業界全体に及び、弊社も7月は経路の組み直しと新しい調達先との関係づくりに時間を割きました。

goto リダイレクトの仕様変更

8月には Google が goto リダイレクトと呼ばれる仕組みを導入しました。詳しくは以前の記事をご覧ください。

検索結果のリンクが、google.com/goto という URL を経由するように仕様変更されたのです。Google の SERP を表面的に取得しただけでは、遷移先の URL がわからないということです。Google は 8月26日に、この変更を認めています。

幸いなことに、DemandSphere は数時間で対応が完了しました。他の検索エンジン向けに用意していた処理基盤が、そのまま機能したためです。しかし多くの SEOツールが一時的におかしくなったため、とても話題になりました。解決策も簡単なものだったので、多くの人たちがソーシャルメディアなどで解説していました。

9月11日からの大規模ブロック

サマー・オブ・ラブの歓待はまだまだ終わりませんでした。9月11日前後から、Google はこれまでで最も強力なブロックを始めました。この記事を書いている現在も終わっていません。DemandMetrics においても、データが正確に反映されるまでに時間がかかったり、一部の不具合などが起こっています。主要な機能が通常通り使用できるので、お問い合わせは少ないようですが、社内では毎日対応に追われています。ユーザーのみなさまは、画面内バナーから最新情報をご確認いただけます。

これは一時的な障害ではなく、今後ずっと続く仕様になると思われます。数週間が経ち、業界全体でようやく立て直しが進んできましたが、ここ数年の運用を見直す必要があり、非常に大きなインパクトがあります。

具体的な対策について、ここで詳しく書くのは避けたいと思います。自社の手の内を守りたいからではありません。対策を公にしすぎると、結果的にお客様に不利益が及ぶと考えるようになったからです。主要なプロバイダーや同業ベンダーとも情報交換を行っており、まもなく多くのベンダーが復旧するはずです。

業界が静かになった理由

9月の件では、業界の空気が変わったことも印象的でした。ほとんど誰も話題にしていないからです。これまでは大規模な障害があると、Search Engine Land のトップに記事が載りました。そして、順位計測ツールはついに終わるのかという議論が始まります。20年間繰り返されてきた定番の話題です。

静かになった理由は、Google との情報戦がはじまったからです。今回は gotoリダイレクトほど簡単な問題ではありませんし、専業ベンダーは数えるほどしかありません。回避策を公開すれば、Google に手がかりを渡すことになります。多くのベンダーは示し合わせたわけでもないのに、沈黙しました。

DemandSphere も、多くの同業他社と同じく、対外的な説明は抑えめにしています。そのぶん、お客様とは直接、率直に情報を共有する方針です。公開できる情報はステータスダッシュボードで随時更新していますので、ぜひご確認ください。

残念ながら、Google の対策はこれで終わりではないでしょう。次にどんな手を打ってくるかは、ある程度予想がつきますので、可能な限り準備を進めておきたいと思います。

Google が本当に気にしているもの

Google が気にしているのは、SEOツールではありません。SEO業界は、Google から見ればエコシステムであり、脅威ではないのです。警戒しているのは、OpenAI や Anthropic といった AI 企業の動きでしょう。Google から見れば、AI 企業は Google のデータにタダ乗りしています。情報源には、十分なトラフィックもクレジットも返していない。そういう構図に映っています。

しかし検索エンジン自体も、ウェブ上の情報を集めて成り立ってきたので、訴訟で勝つ見込みはない。Google への不正アクセスという点でも、もう判例上、勝ち目はありません。そのため、SerpApi を訴えた際には「DMCA」を根拠としましたが、棄却されています。だから強行策を進めているのです。

とはいえ、Google ほどの規模と影響力を持てば、あらゆる角度から独占禁止法の論点が生じます。今回の動きもリスキーな気がします。守りに転ずるよりも、革新を進めてほしいと個人的には思います。

データは誰のものか

私たちの考えはシンプルです。あなたに関するデータ、あなたに影響を与えるデータは、あなたのものです。データを持つ側が妥当な商業条件でも提供しないのであれば、提供する市場は自然に生まれます。Google の功績は大きいものの、これを Google の所有物のようにするべきではないでしょう。

繰り返しになりますが、今回の動きは SEO プラットフォームを狙ったものではないと考えています。この分野の最大手を含めても、私たちは Google にとって小さすぎる存在です。Google が向き合っているのは AI 企業であり、私たちはその争いに巻き込まれています。

それでも、お客様に正確なデータを届け続けることが私たちの仕事です。今後も解決策を見つけ出し、データ提供を続けます。そして、今後の状況も可能な限りお伝えしてまいります。