“なぜ”からアクションを生み出すSERP分析:brightonSEO でのプレゼンをご紹介
4月に日本を訪れたのち、カンファレンスに参加するため英国はブライトンへ出張しました。brightonSEO は、過去最大となる 5,000人以上の参加者を迎え、才能あふれる SEO専門家やマーケターが各地から集結していました。当社はスピーカーとして登壇し、ブースも出展しました。オーディエンスのみなさま、ブースに立ち寄ってくださった方々との素晴らしい出会いに感謝いたします。
11月にはサンディエゴでも brightonSEO が開催されます。当社も参加予定です。日本のお客様もぜひ足を運んでみてください。SEOのカンファレンスとしては間違いなく世界で一番アツいイベントです。毎回、刺激的で充実した時間を過ごすことができます。
さて、このブログでは brightonSEO で私が発表した内容を共有いたします。タイトルは Going beyond “what happened” in SERP analytics で、SERP分析の重要性やその手法についてご紹介します。
順位が上がったのにクリックが減る?検索マーケティングのモデルを進化させる必要
従来のSEOでは「何が起こったのか」がわかれば十分でした。例えば Google Search Console の核となる指標は、平均順位、インプレッション数、クリック数、クリックスルーレート(CTR)ですね。これらのシンプルな指標は、かつての「10本の青いリンク」の時代には非常に有効でした。
順位が良ければインプレッションが増え、その中からクリックが発生する ― という基本的な検索ファネルが前提となっていました。この頃は、1位ならクリック率が 30% で 2位なら 20% といった、ざっくりとした推計でも十分に施策立案をしたり意思決定が可能でした。
しかし今ではかつてのモデルで説明がつかなくなってきました。順位が上がっているにもかかわらず、クリック数が減少するようなケースが頻発しているからです。要するに、順位、インプ、クリック、CTR が連動していないのです。もう昔の考え方では通用しません。
こうした中、SEOの現状を上司にどう報告すればいいのでしょうか。今後の施策をどのように立案すればいいのでしょうか。上司は正しく意思決定できるでしょうか。多くのSEO担当者はこのような悩みを抱えています。
ここで重要なのは、「なぜ」を分析すること。なぜインプレッションとクリックに乖離があるのか?順位が良ければクリックされるという単純な公式を捨てて、SERP(検索結果画面)と向き合うこと。
変化するSERPと進化する分析
現代のSERPは非常に豊かで、絶えず進化しています。そんな状況を揶揄して、Googleはアイデンティティの危機に直面していると言われることもあります。検索エンジンとして生き残るか、広告やコンバージョンを売るための目的地サイトになるかを決めかねていると。確かに、Google は凄まじいスピードで SERP を変化させています。
ファーストビューを埋め尽くすナレッジパネル、操作性にも優れたトラベル広告、ロングテールクエリを生み出すためのサジェストや関連検索CTA… リッチな SERP は検索者の視覚に大きな影響を与え、ランキングはそれほど変わらなくても、クリックに至るまでの知覚と行動を変容させています。
検索結果におけるSERPフィーチャーの増加に対応して、私たちツールベンダーは、単なるランクトラッキングからSERPモニタリングへとシフトしています。下の図は SERPフィーチャーエクスプローラーという機能です。SERPのトレンドチャートの中で丸が大きくなっているものがありますが、それはあなたのサイトがSERPフィーチャーとして表示されていることを表しています。
さらに、ビジュアル・シェア・オブ・ボイス(VSoV)などの追加指標を続々とリリースしています。これはGoogleも含め、すべてのプレーヤーの画面占有率を表示します。最近ではたいてい、Google がもっとも高い占有率を示します。
SERPモニタリングの高度な段階では、大規模なデータ分析が必要になります。あらゆる SERPs の分析をすることで、扱うデータセットが膨大になるためです。このような状況では、BigQuery のようなデータウェアハウスを導入し始めるのが一般的です。当社のデータも BigQuery で動作しやすいよう設計しています。
順位ではなくピクセルで計測
次にピクセル計測による SERP分析をご紹介します。CSSピクセルを用いて SERPを解析すると、例えば下図のように検索結果画面を理解することができます。何がどう注意を引くのかがわかるでしょう。
一番上に位置するものは注意を引きますね。画像が表示されるスニペットも存在感があります。文字だけのスニペットが続くと、あまり違いがわからなくなる。でもすべての検索結果画面をこのように観察するのは大変ですから、あなたのサイトの距離や大きさをデータ化して分析するのです。
ピクセル計測で最も関心が集まっているのは SGE です。SGE はどれくらい大きいのか、どれくらいあなたのサイトに影響するのか。
SGE はかなり厄介です。ときどき、大きなSGE が出現してファーストビューを埋め尽くすこともあるからです。
しかし私たちはすでにこうした現象は目の当たりにしてきたのです。例えばトラベル領域。ファーストビューは Google に占領され、そこで航空券やホテルを予約することができます。SGE以前から、このような問題は起こっていたのです。
もちろん今までのリッチリザルトと SGE は異なるものです。いずれにしてもマーケティングの本質として大切なのは、SGE がどれくらいのインパクトを持っているかということです。ピクセルによる計測とCTRの分析は強力なソリューションになるでしょう。
CTR の分析には、ユニファイドビジビリティという機能が便利です。あるお客様は、GSCでの平均順位は上昇している(緑の線)のに、クリックが減っていました。ピクセルのデータ(水色)をここに当てはめてみましょう。CTR との相関が見えますね。回帰分析の結果、ピクセルは他の指標よりも圧倒的な説明力があることがわかりました。
あらゆるケースでピクセルが万能だというつもりではありませんが、データがあれば議論は前に進みます。データのない議論はメンバーを疲れさせ、間違った戦術をとってしまうこともあります。ぜひ活用してみてください。
SERPインテリジェンス
最後に紹介するのは SERPインテリジェンスという製品で、今までに紹介してきた様々な指標をビッグデータの一つのパッケージにしたものです。あらゆる SERPs のテキストや並び順、大きさなどがデータになっています。BigQuery などを活用して欲しいデータを取り出したりかけ合わせたりして高度な分析が可能です。
このレベルの分析ができれば、マーケティング組織全体に対して SEO は大きな存在感を示すでしょう。ありがたいことに、このソリューションを導入いただくケースは増えています。
モデル化できるSERP内の異なる要素は 600以上にも及びます。我々は非常に柔軟なデータセットを設計しており、新しいデータは随時追加されます。
ショッピング広告が 320px の大きさで、左から順に出稿者は誰で、商品の値段はいくらで… といった、あらゆるデータを扱うことができます。ある顧客は有料の「ショッピング広告」と無料の「人気の商品」でラインナップにどのような違いがあるのかを調査し、非常に興味深い結論にたどり着きました。詳細はお伝えできないのですが、SERPインテリジェンスによる分析は従来の分析とは一線を画していることを強調しておきます。
先ほども触れたように、BigQuery などのデータウェアハウスで処理し、それを BIツールでレポートにします。このようなデータドリブン・マーケティングは今ではかなり普及してきました。
SQL が必須ですが、よく使うクエリを覚えておけば大丈夫。また当社の顧客であれば、無料のサポートを受けられます。
マーケターがデータエンジニアになる必要はありません。実際、必要なデータを取り出したらあとは Excel で作業するというお客様も少なくありません。
とはいえ、データドリブン・マーケティングの全体像は理解しておくべきでしょう。検索マーケターがおさえておくべきポイントを整理すると、下記のようになります。
右に向かって複雑になるにつれ、SEOの業務は製品そのものや経営にもインパクトをもたらすようになります。
本日ご紹介した分析のレベルを、4つに分けるとこのようになります。
これらすべてが重要です。ブルーリング時代からのランクトラッキングも。なぜなら、Googleのインデックスとランキングシステムの現状を表しているからです。そしてこれらは、毎日監視するのが理想的です。
インテリジェンスを活用するには
そもそもアナリティクス自体が難しくなっています。GA4 そのものが不評ですし、プライバシーの問題もあってデータの精度に疑問が残ります。
アナリティクスは、サイト訪問後のユーザー行動を追跡することに優れています。これに対し、SERP分析はサイトにアクセスする前のユーザーの行動を解明するのに役立ちます。
一口に「分析」と言っても、その焦点は訪問前と訪問後で大きく異なります。サイト訪問後のユーザー行動の分析は非常に重要ですが、訪問前のユーザーの行動にも同じくらい注意を払うべきです。しかし、多くのマーケターがこの重要な前段階を見過ごしているのは残念なことです。このギャップに気づき、両方の段階を包括的に理解することが、より効果的なマーケティング戦略を築く鍵となるでしょう。
Google Analytics などのポスト・クリック分析ツールは高度に進化していますが、設定や分析のプロセスが複雑になりがちです。
一方で、SERPのプレ・クリック分析はそれほど難しくありません。したがって、ポスト・クリックの分析に苦労するよりも、まずプレ・クリックの分析から始める方が効率的だと思います。
このアプローチは、分析の目的を「何を分析するか」から「なぜ分析するのか」、そして「誰がこのデータを使うべきか」という、より戦略的な問いへとシフトさせます。このように焦点を変えることは、分析の真の価値を引き出してくれるでしょう。
SERP分析はSEOのみならず、あらゆるチームに役に立ちます。
他部署とどのように連携すべきか。こうした話はもう何年も繰り返されていますね。私がここでお伝えしたいことは一つです。
ほとんどのSEOの問題は、経営戦略の問題だということです。
これは、お客様とやり取りする中で、つくづく感じることです。具体的な例を挙げてみましょう。
みなさん、上の図に見覚えがあるのではないでしょうか。最近は Google のクロールやインデックスが減ったという声をよく聞きます。チームが頑張って集客ページを作ったり、魅力的な機能を実装しても、それらインデックスされなければ意味がありません。
パフォーマンス、ユーザーエンゲージメント、コンバージョンなどの指標が語るのは、結局のところ製品の問題です。良い製品・サービスを作ろうと一致団結していれば、インデックスの問題などは即座に解消されるはずなのです。
良いSEOは良い製品管理であり、その逆もまた真です。この本はみなさん読んでますよね。
良い製品のためにSEOに取り組むためには、データサイエンス、分析、ビジネスインテリジェンスを学ぶことが欠かせません。
経営陣はSEOを理解していないかもしれませんが、データ、インテリジェンス、製品戦略の価値は理解しています。経営陣にSEOを学ばせるよりも、SEO担当者がそれらを学んだ方が業務はスムーズに進行するでしょう。
成功の鍵は、インテリジェンスのライフサイクルを理解することです。実際に運用するのは大変だとは思いますが、この流れに当てはめて必要な情報を集め、施策を検討できれば自然とビジネスはうまくいくのです。
残念ながら、「ビジネスインテリジェンス(BI)」と呼ばれているものの多くは、実際にはインテリジェンス(知能)とはかけ離れています。現状の BI は単なるグラフの集まりにすぎません。
インテリジェンスのライフサイクルは、F3EAD のようなフレームワークを通じて、マーケティングの世界でも注目を集めています。どのようなフレームワークを選択しても良いと思いますが、見るべき指標を計測し、適切に報告・アクションができるサイクルを作ることが重要です。
これが出来ていると、「SEOの価値を経営陣に納得させる」ために時間を浪費することはありません。
SERP分析は非常に強力ですが、効果的に運用することも忘れてはなりません。もし私たちのソリューションに興味があり、組織の悩みをお持ちの方がいれば、お気軽にお声がけください。