アイレップ渡辺氏・JADE辻氏をお招きしたスペシャルイベント「THE VISION OF SEO」開催レポート

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2019年7月31日(水)、SEOの業界を長年牽引してきたアイレップ渡辺氏とJADE辻氏をスペシャルゲストとしてお招きしたイベント『THE VISION OF SEO』を開催いたしました。

当レポートでは、当日のトークセッション内容を一部お届けします。ぜひお楽しみください。

 

ゲスト紹介

株式会社アイレップ SEM総合研究所 所長 渡辺 隆広氏
日本のSEO黎明期である1997年よりSEOサービスを開始。2002年に会社設立(株式会社イー・プロモート)後、2005年4月より株式会社アイレップにてSEM総合研究所 所長を務める。アイレップのSEOサービスを監修する他、日米欧の検索業界の市場調査、サーチマーケティング関連のソリューション開発、検索エンジン企業等への事業展開アドバイスなども行う。SEO分野での第一人者として多くの執筆・講演活動で活躍中。主な著書に「検索にガンガンヒットさせるSEOの教科書」(翔泳社刊)等。また、専門誌・サイトで多数の連載記事を担当し、その高い専門性で人気を博している。

株式会社JADE 代表取締役副社長 辻 正浩氏
1974年北海道生まれ。問屋営業・広告制作・Web制作等を経て、2007年に株式会社アイレップに入社。渡辺隆広さんの元でSEOを学んだ後、2011年に独立。その後、株式会社so.laを設立しSEOサービスを提供。多くのデータと多様なサイトでのSEO施策の経験を元に、SEOによるWebサービスのグロースに取り組んでいる。特にスタートアップ・ベンチャー企業の成長期のサポートをする機会が多く、自然検索流入を短期間で大きく伸ばす目標を多くのサイトで達成。現在も日本有数のWebサイト・WebサービスのSEOを多く担当する。2019年、株式会社JADEを創業。

 

第一部 現在のSEOについて

第一部では、事前に参加者のみなさまからお寄せいただいた質問よりいくつかテーマをピックアップし、主に現在のSEO、検索アルゴリズムについてお話しいただきました。
(モデレータ:DemandSphere株式会社 Platform Growth Manager 室屋 武尊)

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室屋:渡辺さん、辻さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします!早速1つ目の質問です。最近の検索アルゴリズムにはどのような傾向があると感じられていますか?

辻:お客さまからもよく「Googleは何を見ているの?直帰率や滞在時間?」と質問されるんですが、直帰率も滞在時間も見ていません。数多くのデータや実験からそう断言できます。直帰率70%・滞在時間30秒でもユーザーを満足させるサイトであれば順位は落ちないんですよ。もちろんユーザー満足度を測る一つの指標として直帰率を見るのは間違っていませんが、そういう考えなしにただ数字を見るだけでは全く意味がありません。

私は2014年に、毎日複数の環境から検索してクリックしてもらって、意図的にクリック数を増やす実験を行ったのですが、当時順位は上がりました。しかし今はそれでは絶対に効かない。明らかにアルゴリズムが複雑化していますし、その進化はどんどん加速していて、指標はすごい速さで変わっていく。よって、誰でも言える綺麗事にはなってしまうのですが、「ユーザー満足度を上げる」という方向で考えるしかないんですよね。

 

渡辺:2014〜16年頃はクリック率を上げたり滞在時間を伸ばしたりすれば順位を上げることができました。しかし2011〜12年頃にGoogleが本格的に機械学習を投入してからは、そんな単純な話ではなくなったんですよね。

例えば、彼氏彼女の誕生日プレゼントを探しているユーザーって、延々と検索し続けます。なぜなら欲しいものは答えではなくアイディアだから。一方で、料理のレシピを探しているユーザーだったら、いいレシピを見つけたらそのサイトをしばらく開きっぱなしにしますよね。このように検索クエリが違えばユーザー行動も変わるので、Googleも滞在時間やクリック率では単純に判断しなくなりました。「ユーザー満足度を上げる」って、サイトが10あれば10通り以上の方法があるから、どう実行に移していくのかがなによりの課題だと思います。

辻:ユーザー満足度を上げるといっても、例えばアプリを改善したり、エントリーフォームを改善したりしても、それらは順位に影響しません。アプリだけを改善してWebサイトを改善しないと、ユーザ行動が良くシェア等もしてくれるロイヤルカスタマーがアプリへ流れてしまうので、Webサイトの順位が落ちてしまうことも多くあります。

サイト改善・ユーザ満足向上の施策は無限にあるでしょうが、どの施策がサイト価値とSEO価値の両立に効率がいいのかを見極めるのが、専門家の腕の見せどころだと思います。

 

室屋:サイト設計やカテゴリ設計に関する質問も多く寄せられているのですが、今SEO担当者がケアすべきポイントはどのような点でしょうか?

辻:2013年ぐらいまではカテゴリ設計や内部リンクをしっかりやっておけばいくらでも順位を上げられたんですが、それさえやっておけば順位が上がる時代ではなくなりましたね。

あと昔は「h1がどうでh2がこうで……」とマークアップも重視されていましたが、今はマークアップがなくてもGoogleが文章の構造を理解するようになってきたので影響度が下がりました。新しい指標が加わっては、古い指標が外れつつありますね。

 

室屋:Googleの進化の一つに、ユニバーサル検索やGoogle Discoverが挙げられると思います。こうした変化の中で「検索上位を追いかける意味がなくなってきているのではないか?」という質問がきていますが、お二人はどのようにお考えでしょうか?

渡辺:私は「SEOの成果を順位で評価するのはやめません?」とお客さまに言っています。そもそもSEOのゴールは1位をとることではなく、オーガニックトラフィックから売上を上げることですよね。
Googleが検索ユーザーにリンクではなく直接答えを返すようになり、スマホだと顕著に検索1位が昔でいう6〜7位の位置まで下がってしまっていますが、1位をとる以外にもビジネスゴールを達成する方法はたくさんあると思います。

辻:私は約20万キーワードの順位を定期的に追っていますが、昔ほどチェックしなくなりましたね。数十サイトのSEOコンサルティングをおこなっていますが、ランキングデータを提出しているお客さまは1社だけ。順位だけ追いかけるのってある意味こちらとしては楽なんですが、それはお客さまのためにならないんですよね。

渡辺:付け加えると、SEOの評価基準が順位に依存している場合、1位から2位に下がった時にインハウスSEO担当者は上司への説明責任が発生しますよね。10年前なら少し分析すれば改善策にあたりがつきましたが、今って正直わからないじゃないですか。(笑)上司から詰められないためにも、順位を基準にしない方がいいなって思いますね。

 

室屋:ユーザーの解析データはどのようなツールでチェックされていますか?

辻:クローラーが取得するデータだけでなくユーザー行動が検索順位に強く影響する今、Search Consoleだけ見ていても仕方ないのでGoogle アナリティクスも見ていますね。

渡辺:私も基本的にSearch ConsoleとGoogle アナリティクスを使います。順位は市場を把握するためにチェックしますが、もしインハウスSEO担当者だったら必要最低限しか見ないと思います。それより競合がどう工夫してきているかを見ますね。

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室屋:ユーザーの満足度向上を突き詰めていく仕事はもはやUXコンサルタントに近いですが、SEOコンサルタントとの違いはどのような点でしょうか?

辻:SEOコンサルタントは、UXコンサルタントの特化版だと思います。結局私がやっているのって、検索からのLPを全力で改善することなんですよね。検索からのLPとなるページって、記事・一覧・TOPと、ある程度パターンが決まっている。サイト全体のユーザー行動をどうこうすることは私には難しいですが、検索ユーザーに限ればUXコンサルタントに負けないノウハウをもっていると思います。

渡辺:難しいのは、一覧ページにしてもなんにしても商材が変わると良いUXが変わることですよね。私は過去に5年ぐらいユーザビリティ診断の仕事をしていたのでその経験値からある程度パッとわかるんですが、インハウスSEO担当者は、自分の商材の最適解を探し続ける必要があります。

 

室屋:UX色が強まるなかで「今までのSEOはもう終わりでしょ?」なんて声もよく聞こえますが、お二人はどのようにお考えでしょうか?

渡辺:私は20年以上SEOに携わっていますが、業務内容は2000年と2010年と2019年で全く違います。ただしGoogleがクロールして情報を集めて理解して……というプロセス自体は変わっていないので、そういったテクニカルな部分はなんだかんだ今後も必要なのかなと思いますね。

辻:SEOの全てがなくなることは絶対にないと思いますが、例えば、記事を大量生産するタイプのコンテンツSEOはどんどん効率が落ちていますね。毎年何十万とSEO目的の記事、その多くは微妙な記事を量産している微妙なSEO会社がたくさんある中で、インターネット上の日本語情報は飽和してしまっています。

Googleの性能も上がっていますが、飽和攻撃を受けているような状態ですね。その結果、いい記事も検索されづらい状況が増えました。2年ぐらいは1P目に残り続けるだろうと思っていた記事が3ヶ月〜半年で落ちてしまうような事例も増えていて、記事の賞味期限がどんどん短くなっていると感じている人も多いと思います。コンテンツSEOの人たちはここ1年ぐらいでみんな苦しみ始めていますね。
ニュースサイトのような、記事を出すことがサイトの価値そのものの場合は効率が落ちてもやるしかありませんが、多くのサイトは記事に頼るだけでなく、いろんな方向でSEOに取り組む必要があると思います。

渡辺:私はよく海外のニュースメディアを見るんですが、いろいろ工夫してあるんですよ。例えば「(英国の)EU離脱」のような話題のテーマにはリアルタイムで更新される特集ページがちゃんと組んであって、検索するとそのページに行き着くようになっている。ユーザーが求めていることにきちんと応える取り組みをしているんですよね。
「良いコンテンツがあるけどなかなか見てもらえない」という課題を解決するための手段がSEOなのに、SEOのためにコンテンツが作られている。そのなにがダメかって、キーワードを見すぎなんですよ。キーワードはユーザーを理解するためのシグナルの一つにすぎないのに、キーワードばかり見ているからとりあえずキーワードが入った記事の大量生産になってしまう。
だから私がコンテンツについてアドバイスする時は「Googleのことを忘れろ」と言ってますね。Googleはユーザーがそのコンテンツをどう評価したかを見ているだけで、コンテンツそのものを評価しているわけではない。ユーザーにフォーカスしてやるべきです。

辻:キーワードを意識したコンテンツSEOって、おそらく本格的にやり始めて大声で言い出したのが自分なので申し訳ないところはあるんですけど、時代が変わったのは確かですね。サービスの価値がきちんと検索されるようになっていないのに、SEOをやるとなったらSEO目的記事の大量生産しかしない会社が多すぎるんですよ。それは今の時代もったいなさすぎる。ほとんどの記事は時間が経てばトラフィックがどんどん減りますが、一覧ページなどそのサイトの機能として活用されるページはアクセスされ続けるし、Googleからの評価も安定しやすい。こうした機能となるページのSEOに取り組むべきなんです。

 

室屋:第一部、最後の質問です。今までのお話を踏まえるとSEOに関わる人たちはこれからの働き方を変えていかなければならないと思います。どのようなアクションが必要でしょうか?

辻:SEO専門家なら、死ぬ気で全部見ていくしかないですね。Googleを理解したいなら、Googleが見ているだろう範囲を全部見るしかない。
ただしインハウスのSEO担当者ならそんな必要はなくて、社内調整に時間かけるべきだと思いますよ。昔はSEO担当者が自分でコンテンツをブラッシュアップをすれば十分成果を上げられたんですが、これからはカスタマーセンターにいってFAQを充実化させるとか、オフラインイベントの情報をきちんと検索されるようにするとか、他部署のリソースを活用していかなければなりません。私のお客さまでSEOがきちんと伸びている会社って、SEOの定例ミーティングに社長が参加するなどして、SEOと会社の動きがうまく連携しているところなんですよね。インハウスSEO担当者は、社内での存在感を変えていかないといけないと思います。

渡辺:インハウスSEO担当者って、空港の航空管制官のような役割だと思うんですよ。「広報はここに気をつけて」「エンジニアはクロールされるようにだけ気をつけて」と、各部署に少しずつでいいから検索に配慮してもらう。そうすれば100点じゃなくても最低限SEOの要件を満たしたサイトが上がってくるようになります。
インハウスSEO担当者には、他の部署とコミュニケーションをとって施策を推進する力が求められていますね。

 

第二部 これからSEOについて

第二部では、イベントタイトルにもあるSEOの展望について、また、SEOに関わる人たちのこれからのキャリアについてお話しいただきました。
(モデレータ:DemandSphere株式会社 VP of Japan and APAC 岡本 博之)

岡本:はじめに、今回のイベントの開催経緯をお話しさせてください。私は渡辺さんが所長を務め、辻さんが所属していたアイレップのSEM総合研究所で2007年頃から数年一緒に働かせていただいていました。

the_vision_of_seo_photo2△SEM総合研究所時代の一枚

岡本:私が2010年にアイレップを退職した後も度々お話しする機会をいただいていたのですが、先日辻さんがJADEを創業されたタイミングで改めて再会した際、このイベントのセッション話が持ち上がり本日を迎えることとなりました。

第二部は、主に未来についてお話を伺っていきたいと思いますが、はじめにお二人が今もSEOを続けていらっしゃる理由についてぜひ教えていただけますか。

渡辺:私はSEO歴23年目になるんですが、SEOが好きかと言われると別に好きではなくて。(笑)たまたま大学の時に他の誰よりも一日中検索をしていて、「1位に表示されていたらこの商品もっとすぐ買えたのに!」と思ったのがきっかけでSEOを始めて、23年経ってしまった。
なんで続けているのかというと、SEOは好きじゃないけど検索は好きなんですよね。同じものを探しているのに、10人いれば10通りのキーワードがある。検索行動も検索技術もどんどん変化してきている。私は飽きっぽい性格なんですが、SEOって変化があるから飽きないんですよ。

辻:先週必死で分析したものがあっという間に無意味になったり、何をしても困難なことも多かったりするので、SEOは3割ぐらい嫌ですけど、7割ぐらいは面白いですね。Google検索って、世界で一番複雑なシステムだと思うんですよ。この変化にがっちり食いついていくっていう、好奇心をくすぐり続けられる面白さがありますね。

 

岡本:今SEOを生業とする人たちは、10年後どんな仕事をしていると思いますか?

渡辺:5年先であれば、音声や画像など検索方法に変化はあれど今と同じくオーガニックを増やすにはどうするかを考えていると思いますね。10年後は、SEOという言葉は残るんでしょうけど、今とは全く異なる仕事になっていそうです。クローラーにデータを渡すのは一緒なんだろうけど、データの渡し方も今とは違っている気がしていて。

辻:10年前の2009年に私がやっていたことって、今ほとんどやってないです。キーワードの調査が残っているぐらいで、昔ほどはしなくなりましたし。10年後、SEOはあまりに変わっているでしょうね。ただ10年後も100年後もデータをAIにわたす際に可能な限り最適化するという仕事は残っていると思います。データベースにいい形で情報を格納する、きっとそういう仕事をしているんだと思います。ある意味今もそういう仕事ですね。

 

岡本:インハウスSEO担当者になりたての20代の方にむけて、今何を学ぶべきかぜひアドバイスいただけないでしょうか。

渡辺:10年後はさておきもっと短いスパンで考えると、今Googleのためにやっていること、例えば正規化なんかは今後Googleが勝手にやってくれると思うんですよ。だからもっとユーザー側を向いて考える比重を増やすべきだと思いますね。

辻:「作業にしてはダメ」「検索エンジンを理解しながら業務に取り組むべき」ですね。検索エンジンはどういうシステムで、どういう意図をもって動いているのか、私はまさに渡辺さんから学びました。世界一複雑なシステムを理解してやろうとする姿勢が大事だと思います。

 

岡本:本日は元アイレップ代表取締役社長で、現在は楽天執行役員の紺野さんにもお越しいただいてます。黎明期からSEOや広告に取り組みキャリアを積まれている紺野さんにも、ぜひご意見いただこうと思います。

紺野:私はSEOというよりもどちらかというとリスディング広告専門なんですが、マーケティングって完全にローカルビジネスなんですよね。国によって全く異なるので、例えばAmazonであっても現状15カ国程度にしか展開されていない。一方で、Googleの検索エンジンはグローバルプラットフォームなんですよ。ローカルもグローバルも両方やるのは無理だと思ったので、2004年にSEOの専門家である渡辺さんに一緒に仕事をしようと声をかけました。
また、まだGoogle アナリティクスが普遍化されていなかった時代、日本では国内ベンダーが提供している解析ツールがよく使われていたのですが、全世界共通のWebをチェックするなら、と「Omniture SiteCatalyst(現 Adobe Analytics)」というグローバルプラットフォームを取り入れました。
要は、自分がどのドメインの仕事をしているのか理解することが大事です。ピボットをするにしてもピボットの軸がどこにあるのかをわかってないといけない。SEOといっても技術だったらグローバルだし、マーケティングだったらローカルです。どちらもやるのは結構難しい。今自分の軸足がどこにあって今後どう進みたいか、ちゃんと考えている人はやるべきことが明確になると思います。

岡本:紺野さん、ありがとうございます、ぜひまた一席設けさせてください。(笑)

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岡本:次のトピックスは「検索とSEOの未来」。検索エンジン自体が今後どう進化していくのか、ゲストのお二人にお話しいただきます。

渡辺:今、音声検索やGoogleレンズを使っている人ってどれぐらいいますか?この会場にいるみなさんですらGoogleレンズを使っている人はまだ少ないですね。統計データ上だと世界における音声検索の利用率は約20%ですが、私は海外出張中にかなり使っています。英語で話しかけて地図を呼び出したり、お店にGoogleレンズをかざして情報をチェックしたり。テキストを打ち込むより楽なんですよね。
あとは、技術的に画像をうまく処理できるようになってきたからか、Googleは画像検索も推してきていますね。去年ガイドラインを出していますし、Google主催のイベントでもよく言及しています。
さらに私がもう一つ注目しているのはスマートディスプレイ。身の回りのコンピュータに話しかけるとすぐに情報が返ってくるような世界をGoogleは描いていて、それを実現するための検索技術を進化させています。
これらがより普及していくと、SEOもさらに変わっていくのかなと思います。

辻:私がとても注目しているのはGoogle Discoverですね。毎日数千トラフィックをDiscoverから得ているニュースサイトも出てきているので、これはもう無視できなくなっていると思います。世に出てきた頃からずっと見てはいるんですがDiscoverにはまだまだわからないところが多く、フィルターバブルなど問題点もあります。しかしこれからの検索は、Googleがユーザーに合わせて情報をプッシュしてくるのが中心になってくるんだろうと思います。

渡辺:Discoverはまだ「なんでこの記事がおすすめされるんだろう」と思ってしまうことも多いですが、フィルターバブル問題含め、今後Googleがどう改善してくのか注目ポイントですよね。

辻:検索・広告・ソーシャルがよく流入の3つの柱と言われていますが、Discoverが4本目の柱となり始めているサイトが増えてきています。とはいっても、なにもしないで勝手に柱が増えてくれるわけではありません。検索も広告もソーシャルも最適化するために相応のお金や時間がかけてきたはずです。Discoverの現状を把握して自社に合う施策をいろいろ試してようやく、4本目の柱を手に入れることができると思います。

 

岡本:では、そうした技術の進化を踏まえて、SEOに従事する人たちはこれから何をやっていくべきだと思われますか?

渡辺:今後は全検索クエリの約半数が音声または画像になるという予測が出ています。新しく対応しないといけないことが増えてくるでしょうね。新しい施策が出てきたとしても過去の施策がなくなるわけじゃないし、きっと今よりも大変になるでしょう。辻さんの睡眠時間がまた減ってしまいます。

辻:最近は会社を立ち上げたばかりでごたごたしているのであまり眠れてませんが、人が増えて会社が落ち着けばどうにかなると思っているので、採用など頑張っているところです。
……あくまで個人的ですが、2013年以前からSEOをやっている人とそれ以降にSEOをやり始めた人には違いがあると感じています。昔からSEOをやっている人って、キーワードの意識が身に染み付いちゃってるんですよね。キーワードごとのユーザー解析データを浴びるほど見続けてきたからこそ、SEOにおける「これは合っている、間違っている」という感覚の精度が高い。新しい動きはどんどん出てきていますが、このキーワードの意識をもって一歩一歩進んでいけば、これからの未来も案外ついていけるんじゃないかと思っています。

 

岡本:13年以降にSEOを始めた人はどうしたらいいですか?

辻:同じようなキーワードの感覚をもつのは無理だと思います。私が2007年アイレップに入社した初期にやっていたことに「十数万キーワードを目視で分類してアクセス解析と一緒に検索行動を分析」という仕事がありまして、その時の感覚が今でも役立っていますが、今はそういうデータも見られませんよね。
でもDiscoverやGoogle Mapsまわりは皆同じスタートですし、そもそもキーワードの重要性は減っていますので、十分に価値を出せるものと思います。それでもキーワードの感覚を身につけたいというなら、様々なWebサイトの大量のデータに関わるとか、量をやっていくしかない……というブラック企業な話になりますね。

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渡辺:ユーザーの検索の感覚をつかめる機会って、たくさんあると思います。私は昔パソコン教室の講師として検索の仕方を教えていたんですが、検索行動が人によって全然違うのが興味深くてぐるぐる見回ってました。あと大学の図書館に行ったときは共有パソコンの検索履歴(ブラウザのアドレスバーをクリックしたときに表示される履歴キーワード)をつい見てましたね。検索履歴のチェックはあまりオススメはできませんが(笑)身近にいる両親や子どもの検索行動を観察するだけでも気づくことはたくさんあると思います。

 

岡本:最近はInstagramでファッションや飲食店を調べる人も多いと思いますが、Google以外の検索にはどのように対応すべきでしょうか?

渡辺:ユーザーは目的によってプラットフォームを選びますよね。例えば、拾った野良猫の体調を確認したいときはGoogleでチェックリストを探すと思います。また、野良猫を保護する方法を知りたいときはYouTubeで動画を探すでしょう。検索=Google一択とならないようにユーザー行動を考える必要がありますね。

辻:Instagramの把握は、私は諦めたのでよくわかりません。昔は検索が関わることは一人で全部把握したいと頑張っていましたが、2~3年前にギブアップしまして、SEOに影響が小さい部分は軽く見るだけになりました。Instagramは他との連携が薄めでいけるので、概要しか把握できていませんね。
ただ、TwitterやFacebookなどSEOに影響が強い領域は、全力で見ていくしかないですね。Googleとは全くノウハウが異なるので、もう時間をかけて見ていくしかないです。結局ブラックですね。

渡辺:一つおすすめなのは、コアなコミュニティを見にいくことですね。例えばFXだとTwitterを常にチェックしている人が多かったり、カメラファンだと新しいレンズのレビューはみんなサイトでチェックしていたりする。どのプラットフォームを見ているのか傾向がでるので、注力すべきプラットフォームがはっきりすると思います。

 

岡本:いよいよ最後の質問です。キャリアの話に戻りますが、インハウスSEO担当者のみなさまから、よく「組織を動かすのが難しい」という声を聞きます。それに対してぜひアドバイスをいただけますでしょうか。

渡辺:インハウスでも代理店でも同じだと思うんですが、最初に信頼を得ることがすごく大事ですよね。小さくても結果がでる施策をやる。これだけ自然検索ってインパクトがあるんですよって上層部に提示して、自然検索への投資に価値があることを理解してもらい、自分のポジションを作っていくしかないと思います。

辻:最後なのにきれいなまとめじゃなくて申し訳ないんですけど、成果さえ上げればどうにでもなります。成果を上げればいくらでも評価されるし、周りはいくらでも動いてくれる。どうして評価されないのか、どうして周りが動いてくれないのかを考えるのではなくて、どうして成果が上がらないかを考えるべきで、その答えはたくさんあります。

渡辺:ものは言いようで。「アルゴリズムのアップデートがあったが自社サイトが影響を受けなかったのは私がちゃんと仕事をしていたからです」「順位が落ちました、やっぱりSEO対策にもっと予算をください」とか、決裁権のある人に自分の仕事をどう報告するかというコミュニケーションスキルは重要だなと、外から見てて思いますね。(笑)

岡本:いろいろなお話が聴けて非常に楽しい時間になりました。渡辺さん、辻さん、本当にありがとうございました!

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SEOを長年牽引されているお二人の「VISION」を垣間見ることができたイベントとなりました。登壇いただいたアイレップ渡辺さん、JADE辻さん、そしてご参加いただいたみなさまに心より感謝申し上げます。

またこうした学びと交流の場をつくっていきたいと思っておりますので、引き続きDemandSphereをよろしくお願いいたします。